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“衝撃”から27年、伝説が“遺した”生きた証 時を止めたまま走り出した“永遠のロック”

  • 2025.12.16

「27年前、あの5月の空気って、どんな匂いがしていたっけ?」

初夏の気配が街をやわらかく照らす中、音楽シーンには重く澄んだ静寂が漂っていた。hideが突然この世を去った知らせは、多くの人の時間を止め、色のない日々を広げていた。そんな喪失感のただ中で、まるで“置き土産”のように一曲が静かに、しかし確実に放たれた。

hide with Spread Beaver『ever free』(作詞・作曲:hide)――1998年5月27日発売

このシングルは、ランキング初登場1位を記録し、80万枚以上を売り上げた。hide with Spread Beaver名義としては3枚目のシングル。そして、hideの急逝直後にリリースされた作品でもあった。

音の中に残された“生きていた時間”

『ever free』には、彼が生涯を通して貫いてきたロックの衝動と、広がるメロディへの美意識が、まっすぐに刻まれている。タイトルに込められた“free”という言葉が象徴するように、この曲ではhide特有の軽やかさと遊び心が息づいたまま残っている。

ギターの粒立ち、リズムの推進力、そして浮遊感のあるメロディ。どれも彼が1990年代後半の音楽シーンに刻んだ、独自の“色”。その音を改めて耳にしたとき、「彼はまだそこにいた」と感じたリスナーも多かったはずだ。

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1998年11月に開催されたhide Seva [C-Aid]チャリティーライブより(C)SANKEI

変わらない輝きを放つロックサウンド

『ever free』が持つ魅力は、悲しみの中で特別に神格化されたものではなく、もともとhideの音楽が持っていた“普遍的な強度”にある。キャッチーでありながらエッジがあり、激しさの中にも優しさが同居する。言葉に頼らずに心を動かすロックの本質が、ここに詰まっている。

特にサビの伸びやかな旋律は、開放感と切なさが同時に広がり、聴く人の胸を自然と軽くしていく。明るい曲調でありながら、どこか儚い温度が漂っているのも、この曲の大きな特徴だ。

“終わり”ではなく“続き”として届けられた曲

この曲がリリースされた1998年5月は、日本中がhideの死を受け止めきれずにいた時期だった。音楽番組には彼の映像が繰り返し流れ、街には喪失を抱えた空気が満ちていた。

そんな中で届いた『ever free』は、“別れの象徴”ではなく、“これからもずっと続いていく何か”を示すように響いた。hideの作品は派手さや刺激だけでなく、希望の輪郭をそっと描く瞬間があった。その一端が、この曲にも確かに息づいている。

そして、hide with Spread Beaver名義の楽曲として、バンドメンバーそれぞれのプレイが鮮烈に刻み込まれている点も重要だ。hideが仲間と共に作り上げたサウンドの“現在地”を、そのまま未来へ引き渡すような作品でもあった

時間を越えて鳴り続ける“解放”の音

『ever free』の魅力は、時間の経過によって色褪せるどころか、むしろ増しているようにさえ感じられる。あの日の空気を知る人には、記憶の続きとして。hideをリアルタイムで知らない世代には、自由なロックの象徴として。

聴き返すたびに、音の中にある“生きた証”が優しく胸に触れる。その感覚が、27年という時間を一瞬で溶かしてしまう。

だからこの曲は、今もこれからも、誰かの日常の中でそっと鳴り続ける。“ever free”という名のとおり、決して縛られず、止まらず、自由なままに。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。