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34年前、カップヌードルCMで流れた“50万ヒット” 名盤から「あえてシングル化」されたワケ

  • 2025.12.18

「34年前、どんな風が街を吹き抜けていたか覚えてる?」

1991年1月。煌びやかな広告に照らされる交差点も、人々の足早な気配も、どこか“前へ進まなきゃ”と急かされているような季節だった。そんな時代の風景にそっと寄り添い、迷いながらも前を向こうとする気持ちを後押しした曲がある。

CHAGE&ASKA『太陽と埃の中で』(作詞・作曲:飛鳥涼)――1991年1月30日発売

乾いた空気に灯った、小さな“前へ”の衝動

『太陽と埃の中で』は、1990年8月リリースのアルバム『SEE YA』からのリカットシングルだった。テレビで何度も流れていた日清食品「カップヌードル」のCMソングでもあり、あの暖かい湯気の映像とともに記憶している人も多いだろう。

ヒットを狙った“王道のタイアップ曲”とは違う。むしろ、都会の片隅にある息づかいを拾い上げたような、乾いた質感が印象的だ。

飛鳥涼が描くメロディは、力強さと繊細さが共存している。勢いだけではなく、弱さだけでもない。その中間にある“等身大の前へ進む気持ち”。そして、そのニュアンスを受け止めたCHAGE&ASKAの歌声は、どこまでも真っ直ぐだった。

「迷ってもいい、でも進める」

そんな静かなエールのような空気が、この曲全体を包んでいる。

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1990年、東京・日本武道館でコンサートをおこなったCHAGE&ASKA(C)SANKEI

“追いかける青春”を映した、揺るがない佇まい

『太陽と埃の中で』から感じる風の匂い、埃のきらめき、遠くに見える光、そんな描写から伝わってくるのは、走り続ける青春のリアリズムだ。

アレンジも魅力のひとつ。都会の雑踏がふと静まり返ったような余白があり、聴いている側の体温に自然と馴染んでくる。

飛鳥涼のメロディラインは、ひとつひとつの言葉が“未来の方角”を示すように置かれており、聴くほどに曲の奥に流れる意思が立ち上がる。華やかな夢ではなく、泥だらけのまま前へ進む青春。その感覚こそ、この曲が時代を超えて愛される理由なのだ。

今でも、心の奥でそっと鳴り続ける理由

『太陽と埃の中で』はロングヒットとなり、最終的に50万枚以上のセールスを記録した。当時のリスナーがこの楽曲の“共鳴ポイント”を直感的に見抜いていた証でもある。

人は、前へ進むために“派手な勇気”を必要とするわけではない。

むしろ、「昨日より少しだけ歩ければ、それで十分」という気持ちが、自分を前に押し出してくれることのほうが多い。『太陽と埃の中で』は、そんな等身大の強さをそっとすくい上げてくれる曲だ。

街の埃が夕陽にきらめく瞬間のように、何気ない日常の中にも希望があることを思い出させてくれる。34年経った今でも、歩き疲れた心に寄り添い、また前へ向かう勇気をほんの少しだけ灯してくれる。それはきっと、この曲が“追いかける青春の温度”をずっと変わらずに抱き続けているからだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。