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39年前、アイドルが紅白で示した“悪ガキの無邪気さ” 「キザに決めすぎない」3人

  • 2025.12.15

「39年前、あの冬の空気って覚えてる?」

寒さをすり抜けるように、街を歩く人たちの息が白く揺れていた1986年のはじめ。夕暮れのアーケードには、まだお正月の名残が漂っていて、景気の熱とともにどこか“浮き足立った明るさ”が残っていた。そんな冬の真ん中に、テレビから勢いよく飛び出してきたのが、シブがき隊の曲だった。

シブがき隊『トラ!トラ!トラ!』(作詞:森雪之丞・作曲:後藤次利)――1986年1月22日発売

この曲は彼らにとって17枚目のシングルであり、年末にはこの曲で『第37回NHK紅白歌合戦』へ5回目の出場を果たした。

冬のテレビから弾けた、3人の無邪気な衝動

1980年代の男性アイドルといえば、端正な笑顔や王子様的なイメージも多かった。その中で、シブがき隊はどこか“やんちゃな兄ちゃん”の延長線にいるような親しみやすさがあった。

『トラ!トラ!トラ!』は、そんな彼らのキャラクターをそのまま音にしたような1曲だ。

軽やかに跳ねるリズムと、遊び心が服を着たようなメロディ。ワンフレーズ聴いただけで雰囲気が伝わるほどに、音そのものが明るく転がっていく。“難しいことを全部忘れさせるような明るさ”が曲にあふれていて、冬の空気に鮮やかな色を足してくれた。

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1982年、第13回日本歌謡大賞で放送音楽新人賞を受賞したシブがき隊(C)SANKEI

80年代らしい“派手さ”と“コミカルさ”の絶妙バランス

作詞は、独特の言葉選びで作品に躍動感を与える森雪之丞。作曲を担当した後藤次利は、1980年代に数々のヒットを手がけ、当時の歌謡界を支える重要人物だった。

そして、編曲には『スシ食いねェ!』も担当したイントロの名手・鷺巣詩郎が参加している。

この豪華な布陣が作り出したサウンドは、ただの明るさだけでなく、音のひとつひとつに“80年代特有のドラマティックさ”を持っていた。

特に鷺巣によるアレンジは、勢いのあるメロディを支えながらも、しっかりと緻密な構造をつくり出している。コミカルな雰囲気に流されすぎず、音楽としての完成度を高く保っているあたりは、プロフェッショナルの技だ。

シブがき隊というグループの“核”が詰まった一曲

シブがき隊の魅力は、どこか“悪ガキだけど憎めない”ところにあった。彼らの楽曲には、キザに決めすぎない、肩の力が抜けた軽さがいつも漂っていた。

『トラ!トラ!トラ!』は、その中でも特に“弾けるような若さ”と“ライブ感のある勢い”が前面に押し出された作品だった。

聴けば聴くほど、その無邪気さが癖になっていく。

アイドルの曲でありながら、どこか街の兄ちゃんが「ちょっと面白いことやるから見ててよ」と言ってくれるような距離感があった。

“勢い”だけでは終わらない、時代の空気と結びついた曲

1986年は、バラエティ、歌番組、CM…どれもが華やかで勢いに満ちていた。そんな時代に、この曲のエネルギーはまさにぴったりだった。

『トラ!トラ!トラ!』は、パフォーマンス、曲調、メンバーのキャラクターが絶妙に絡み合い、“最高に楽しい瞬間”として当時の空気に刻まれた。彼らが放った明るさは、あの80年代の冬の街に、確かにあった熱や笑顔を思い出させてくれる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。