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27年前、人気ドラマーが作曲した“春色ポップ” 派手さを封印し40万ヒットしたワケ

  • 2025.11.30

27年前、あの街の空気って、どんな匂いがしていたっけ?

冬がゆっくり解け、まだ少し冷たい風が頬をかすめる2月。新しい季節の入り口には、理由もなく心がふわっと軽くなる瞬間がある。その淡い揺らぎをまるごと封じ込めたような1曲が、静かに街へ流れ始めた。

JUDY AND MARY『散歩道』(作詞:YUKI・作曲:五十嵐公太)――1998年2月11日発売

ボーカルのYUKIが描く独特の世界観と、バンドの明るく弾むサウンド。その“ジュディマリらしさ”が、春の曖昧な空気にぴたりと寄り添っていた。

揺れる季節にそっと差し出された一曲

『散歩道』は、JUDY AND MARYの14枚目のシングルであり、フジテレビ系ドラマ『ニュースの女』の主題歌として広く知られるようになった。ドラマの持つ雰囲気に対し、この曲は柔らかく、どこか無邪気な風を運んでくる。

特筆すべきは、作曲がドラマーの五十嵐公太によるものだという点。彼が手がけた楽曲は決して多くないが、その希少さもあって、この曲はファンの間でも特別な存在として愛されている。

40万枚以上のセールスを記録し、同年末の『第49回NHK紅白歌合戦』でも披露されたことで、1998年を象徴する楽曲の1つとして記憶に刻まれた。

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JUDY AND MARYのボーカル・YUKI-1998年撮影(C)SANKEI

色彩がはじけるような“ポップの魔法”

この曲の魅力は、イントロからすでに色鮮やかだ。軽やかに転がっていくバンドサウンドの中で、YUKIの声は弾むように空へ放たれ、聴く人の心に自然と風を通す。

音のひと粒ひと粒がまるで陽だまりのようで、聴くだけで景色が明るくなるような“温度”がある。

メロディは軽快で、サビに向かうにつれてそっと感情を押し上げていく。その緩やかな高揚が、散歩の途中でふと足取りが軽くなるあの感覚とよく似ている。

ロックバンドなのに、どこか絵本のような親しみやすさ、それこそがJUDY AND MARYの大きな個性だが、『散歩道』はその魅力が純度高く表現された一曲と言える。

1998年の街に流れていた空気

1998年といえば、J-POPの勢いがピークへ向かう時代。華やかなサウンドが溢れる中、『散歩道』は派手さとは少し距離を置きつつ、人々の心に自然と入り込む“日常の光”のような存在だった。

ドラマ『ニュースの女』の放送によって曲がより浸透し、街のあちこちからこの曲が流れたことで、春の始まりの空気そのものがカラフルに染まっていった。

そして紅白歌合戦でのパフォーマンスは、バンドとしての勢いと存在感を全国へと改めて示した瞬間でもあった。

今も変わらず連れていってくれる“あの季節”

四半世紀が過ぎても、『散歩道』を耳にすると、春のやわらかい光景がふっと蘇る。忙しい日常の中で忘れかけていた“気持ちが軽くなる瞬間”を呼び起こしてくれるような、不思議な優しさを持つ曲だ。

聴けば心が少し開いて、景色が鮮やかになる。そんな“春色の魔法”のような楽曲が、1998年に生まれたこの『散歩道』だったのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。