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27年前、小室サウンドが切り裂いた“時代の速度” ダンスナンバーが50万ヒットしたワケ

  • 2025.11.30

「27年前、あの街の夜風って、こんなに速かったっけ?」

1998年の終わりが見えてきた初秋。街にはネオンがまだ強気に瞬き、CDショップの前には最新曲を求める若者たちの列ができていた。景気の明るさは薄れつつあったのに、音楽だけは妙に未来を見ていた。そんな“スピードの時代”に、さらに火をつけるようにしてリリースされたのがこの1曲だった。

globe『wanna Be A Dreammaker』(作詞:小室哲哉、MARC・作曲:小室哲哉)――1998年9月2日発売

ランキング初登場1位、50万枚以上のセールス。数字以上に、当時の空気を切り裂くような存在感を持っていた。

未来の風が吹き抜けた日

小室哲哉の鋭く洗練されたビート、KEIKOの高く伸びるヴォーカル、そしてマーク・パンサーのラップが混ざり合って生まれる独自の世界観。そこにこの曲の持つ“疾走感”が重なり、当時の音楽シーンに強烈なインパクトを残した。

イントロのシンセサウンドが立ち上がった瞬間、空気が一気に未来へ加速していくような感覚を覚えたリスナーも多いはずだ。“スピードだけじゃなく、可能性まで押し上げてくれるような感覚”が、この曲には確かにあった。

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1998年、globeの横浜スタジアムライブより(C)SANKEI

研ぎ澄まされたglobeの魅力

KEIKOの声は透明感と力強さが同居しており、その高音がシンセと重なることで、一種の“空気の広がり”をつくり出している。それに対し、マークのラップは楽曲にしなやかな重心を与える役割を担い、硬質なビートの中に人間的なリズムを生み出していた。

小室哲哉のメロディラインは、速いテンポでありながら緻密に構築されており、焦燥感ではなく“前へ進む推進力”を感じさせる。

まさにglobeらしい三位一体のバランスが、この曲でさらに研ぎ澄まされていた。

印象を決定づけた“あのミュージックビデオ”

『wanna Be A Dreammaker』と言えば、多くの人がまず思い浮かべるのが、ガラスが砕けながら落ちてくるミュージックビデオだろう。

光を反射しながら割れていくガラスの破片。無機質でありながらどこか物語性を感じさせるあの映像は、当時の“未来的”という価値観を象徴する演出だった。

破片が落ちていくスピードや質感は、曲が持つストイックな疾走感と絶妙にリンクし、視覚と聴覚の両方で“時代の速度”を体感させてくれた。

小室サウンドが持っていた“時代の手触り”

1998年といえば、J-POPはまだフィジカルCD中心の文化で、音楽が“街の音”として確かに存在していた時代。globeのようにシンセとビートを軸にしたグループは、まるでその街に“高速道路を敷く”ような存在だった。

当時の若者たちは、恋も仕事も夢も、どこか落ち着く暇がないほど急ぎ足で駆け抜けていった。

『wanna Be A Dreammaker』には、その時代のスピード感と、走り抜けることでしか掴めない未来への期待が確かに閉じ込められていた。だからこそ、聴くと一瞬で“あの頃の気温”が蘇る。

音の隙間からこぼれた、青春の温度

27年たった今、当時のように街で流れる音を共有する文化は薄れた。それでも、この曲を聴けば、あのビル風、あのネオン、あの高揚感が胸に舞い戻ってくる。

『wanna Be A Dreammaker』は、ただのダンスナンバーではない。時代とともに走り抜けた、ひとつの“青春の速度”そのものだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。