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27年前、バラエティ発の企画ソングが放った“140万の衝撃” “ゆるさ”が大ヒットしたワケ

  • 2025.11.28

「27年前、あの春の街って、どうしてあんなに明るく見えたんだろう?」

1998年。新しい時代の始まりを感じさせるように、街にはどこか弾むような空気が漂っていた。音楽の聴かれ方が変わりつつあるあの頃、テレビの向こうで生まれた“お遊びのはずだった企画”が、気づけば国民的ヒットへと化けていく。

BLACK BISCUITS『Timing』(作詞:森浩美、ブラックビスケッツ・作曲:中西圭三、小西貴雄)――1998年4月22日発売

深刻さなんて一切ない。むしろゆるい。だけど、その“ゆるさ”こそが、当時の日本にとって必要なリズムだったのかもしれない。

胸の奥に残る“不思議な幸福感”

ブラックビスケッツ(BLACK BISCUITS)は、日本テレビ系バラエティ番組『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』の企画で誕生したユニット。テレビ発の音楽企画が数多く生まれていた時代とはいえ、彼らの存在感はひときわ強かった。

番組のミッションを背負いながら本気で歌い、本気で踊り、本気で笑わせる。その姿は、当時のテレビならではの熱量を感じさせたし、何より親しみやすかった。そこに、中西圭三と小西貴雄という確かな音楽職人が手がけたメロディが加わったことで、企画ソングでは終わらないクオリティが生まれた。

『Timing』の魅力は、その圧倒的な“入っていきやすさ”だ。“気づいたら口ずさんでいる”。それこそが、この曲が持つ最強の魔力だ。

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1998年、BLACK BISCUITSコンサートより(C)SANKEI

軽やかに弾むリズムが、時代の空気を映していた

音作りはとにかく明るく、前へ進むように弾む。シンセの軽快さとバンドサウンドの温度感が絶妙に混ざり合い、どこを切り取っても“気持ちが上向く”音になっている。テンションを押し上げるサビのメロディはキャッチーで、単純だけれど飽きない。

そして3人のボーカルが織りなす素朴なハーモニーが、この曲ならではの人懐っこさを生んでいる。歌唱力を見せつけるというより、まっすぐ届けようとする純粋さ。テレビを通して見ていた彼らの“キャラクター”がそのまま曲に宿っているようだった。

当時は、J-POPがどんどん洗練され、アーティスト同士が競うようにクオリティを高めていった時代。その中で『Timing』は、トレンドとはまったく違う場所から、気負わず、飾らず、笑顔を連れてやってきた。その肩の力の抜け具合が、逆に強烈な存在感を放っていた。

“流行りもの”では終わらなかった理由

『Timing』は企画ソングながら、最終的に140万枚超のセールスを記録。これは、単にテレビの勢いだけでは到達できない数字だ。

背景には、1990年代後半の“国民全体で同じものを楽しむ”空気があった。学校でも、職場でも、カラオケでも、とにかくみんなが歌った。そしてその中心にあったのは、テクニックでも話題性でもなく、“一緒に歌うと楽しい”という、音楽のもっともシンプルな喜びだった。

さらに、作曲陣の実力はやはり大きい。ブラビのメンバーと共作した森浩美の詞のキャッチーさ、そこに込められた普遍性は抜群。さらに中西圭三のポップセンス、小西貴雄のアレンジ力。それらが企画ものの枠を超え、リスナーの耳に自然と残る“強度”を生んでいた。

時代を超えて残った、“あの頃の軽さ”

いま聴いても、『Timing』の音には不思議な軽さと温かさがある。曲を聴けば、当時テレビの前で笑っていた自分や、友達とカラオケで叫んでいた時間、特別ではないけれど確かに幸せだった“あの日々”が自然と蘇る。

だからこそ『Timing』は、企画ソングでも、流行りでもなく、“思い出を照らす音楽”として残り続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。