1. トップ
  2. 27年前、スポーツの熱気を帯びた“勝負のサウンド” “未成熟”だけど120万ヒットしたワケ

27年前、スポーツの熱気を帯びた“勝負のサウンド” “未成熟”だけど120万ヒットしたワケ

  • 2025.11.28

1998年10月の終わり。秋が深まり、夜の気配が少しだけ早く訪れる頃。制服姿が揺れる放課後の商店街、部活帰りの笑い声、テレビから流れ込む躍動感。どこかで誰かの鼓動が速くなるような、何かが始まりそうな予感が空気の隙間に漂っていた。その中心に、ひときわ強く輝く4人組がいた。

SPEED『ALL MY TRUE LOVE』(作詞・作曲:伊秩弘将)――1998年10月28日発売

TBS系『1998バレーボール世界選手権』テーマソングとして、彼女たちは再びテレビの前の日本中を釘付けにした。ランキングでは初登場から2週連続1位、セールスは120万枚以上。数字だけで語れない“熱”が確かにあった。

心が追いつかないほど駆け抜ける高揚感

『ALL MY TRUE LOVE』は、SPEEDが持つ“青春の瞬発力”が最も鮮やかに形になった一曲だ。

曲が始まった瞬間、飛び込んでくる歌声が、聴く者の心を一気に前へと押し出す。そこに重なるビートは軽やかに脈打ち、胸の奥をふっと押し上げるようなシンセが、曲全体に眩しいきらめきを散りばめていく。

そして歌声が重なった瞬間に宿る圧倒的な推進力。歌詞を語らずとも、彼女たちが放つエネルギーだけで、まっすぐにぶつかっていく気持ちがそのまま体温として伝わってくる。

跳ねるようなリズム、疾走感の中に潜む優しさ。そのすべてが当時の若い世代に刺さり、世代を超えて記憶に残る1曲となった。

undefined
SPEED-1998年撮影(C)SANKEI

伊秩弘将が描いた“成長し続けるガールズユニット”の現在地

伊秩弘将が生み出す広がりのあるメロディと緩急をつけた展開は、単なるダンスミュージックではなく、4人の年齢とともに増していく“感情の深さ”を丁寧に描いていた。

1998年はSPEEDが音楽・ライブ・メディア露出ともに勢いの絶頂にあった時期。前年のヒット曲群で見せた勢いに、さらに“成熟”のニュアンスが少しだけ混ざり始めた、その絶妙なバランスを刻んだのが、この『ALL MY TRUE LOVE』だった。

世界選手権を彩った“勝負のサウンド”

TBS系『1998バレーボール世界選手権』のテーマソングとして起用されたこともあり、この曲はスポーツの熱気と強く結びついている。

躍動するプレーとリンクするテンションの高さ、踏み出す瞬間の緊張と高揚。会場の映像に彼女たちの歌声が重なるたび、自分の限界を超えていく瞬間を誰もが体感できるような力が宿っていた。

ライブで披露されたときの4人の息の合ったパフォーマンスも、当時のSPEEDの実力と存在感を象徴していた。

1998年の空気を永遠に閉じ込めた曲

『ALL MY TRUE LOVE』が今も色褪せない理由は、単に勢いがあるからではない。

疾走感の裏に、どこか切なさが潜んでいるからだ。あの日の帰り道、夕暮れの校舎、冷たくなる風。加速度的に大人になっていく自分と、まだ手放せない青春の輪郭。

あの頃の気持ちを取りこぼさないように……そんな願いが、4人の声を通して永遠の形になっている。

27年経った今、曲が流れたとたん、胸の奥で眠っていた情熱がふっと目を覚ます。それは、時代の空気ごと美しく封じ込めた、SPEEDという存在の確かな証だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。