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15年前、ドラマ主題歌が放った“静かな強さ” 痛みを突きつけるバラード

  • 2025.11.27

「15年前、あの夜の匂いを覚えてる?」

秋の終わり、街の灯りが少し冷たく感じられた季節。帰り道のビル風にカーディガンを押さえながら、胸の奥にだけ“説明のつかないざわめき”が残ったあの頃。そんな気配をそのまま閉じ込めたような一曲が、静かに、しかし確かに広がっていった。

JUJU『この夜を止めてよ』(作詞:松尾潔・作曲:松本俊明)――2010年11月17日発売

フジテレビ系ドラマ『ギルティ 悪魔と契約した女』の主題歌として、ドラマの持つ張りつめた空気と見事に溶け合いながら、いつしか“あの年の秋”を象徴するような存在となった。

夜に落ちるように始まった、JUJUの“静かな強さ”

『この夜を止めてよ』がリリースされた2010年は、バラードがじわりと存在感を取り戻していた時期でもあった。派手に盛り上げるより、心のひだに触れるような“しっとりした強さ”が求められていた頃だ。

JUJUはデビュー当初からジャズやソウルの素養を持ち、落ち着いた艶のある声が魅力のシンガー。その声質と、松本俊明が紡ぐ繊細でドラマ性に富んだメロディが交差し、この曲ならではの緊張感が生まれている。

作詞は松尾潔。松尾らしい恋愛の“感情の揺れ幅”を、説明するのではなく温度で伝えている。彼らが組んだことで、言葉数の少なさがかえって圧をもたらす、研ぎ澄まされたバラードが完成した。

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JUJU-2010年撮影(C)SANKEI

心を締めつける“触れたら壊れそうな温度”

この曲の魅力は、決して声を荒げないのに、感情が確かに伝わってくるその構成にある。

ピアノを中心にしたサウンドは静かで、余白が多い。だからこそ、JUJUの声がわずかに震える瞬間がはっきりと浮かび上がる。その繊細な表現に引きずられるように、聴く側の心にも小さく波紋が広がる。

“言えない気持ちほど苦しい”という、誰もが知る感覚。この曲は、その普遍的な痛みを、劇的にじゃなく、そっと突きつけてくる。

ドラマ『ギルティ 悪魔と契約した女』のクライマックスに差し掛かるたび、この歌が流れると場面全体が一気に重く色づき、その余韻が視聴者の記憶にも刻まれていった。

実際、この曲はドラマ放送時期からじわじわと注目され、JUJUの代表的バラードのひとつとして定着していく。タイアップ頼りではなく、曲そのものが放つ緊張感と美しさが、時の流れとともに静かに評価を高めていった形だ。

時間が経つほど深まる“夜の余韻”

『この夜を止めてよ』は、恋の終わりを嘆く歌でも、劇的な別れを描く歌でもない。むしろ、終わりが近づいていることを薄々理解しながら、それでも今だけは止まってほしいと願う、あの複雑な一瞬を捉えている。

15年経った今でも、秋の夜にふと聴きたくなる。灯りが滲んで見える帰り道や、誰かを思い出してしまう時間に寄り添ってくれる。時代が変わっても、その“静かな痛み”は色褪せない。JUJUの声が描いた夜は、きっとこれからも多くの人の胸をそっと締めつけ続ける。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。