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35年前、紅白に返り咲いた“陽気すぎるレジェンド” 昭和のコミックソングが平成に響いたワケ

  • 2025.11.29

「35年前、チョイト一杯のつもりで飲んでたら、ハシゴ酒になってた?」

年末へ向けてざわめきが強まっていた1990年の冬。イルミネーションの間を抜けると、商店街でもテレビでも、どこかで必ずあの軽快なリズムが流れていた。昭和の笑いとユーモアを背負った男が、平成の真ん中へ帰ってきた瞬間だった。

植木等『スーダラ伝説』(作詞:青島幸男・作曲:萩原哲晶)――1990年11月25日発売

この日には同名アルバムもリリースされ、1曲目にこのメドレーが収録された。年末には『第41回NHK紅白歌合戦』にも出演し、“平成の冬に舞い戻った昭和のカリスマ”として再び注目を浴びていく。

“笑い”が音楽になった瞬間を、もう一度

『スーダラ伝説』は、植木等の代表曲をひとつにまとめた豪華すぎるメドレーだ。冒頭を飾る『スーダラ節』をはじめ、『無責任一代男』『ホンダラ行進曲』など、名曲の数々が惜しみなく詰め込まれている。

不思議と一本の“喜劇的な背骨”の上でまとまり、まるで舞台の一本の演目のように流れていく。この“ひとつに束ねてしまう強さ”こそ、植木等という存在が持つ圧倒的なアイコン性だった。

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植木等-1990年撮影(C)SANKEI

ただの懐メロじゃない、“平成に起きた奇跡”

当時、平成はまだスタートしたばかり。世の中は新しいものに心を奪われながらも、どこかで昭和のぬくもりを求めていた。そこへ植木のコミックソングが再び鳴り響いたことで、“懐かしいのに新しい”という不思議な感覚が広がっていく。

曲全体のアレンジは90年代的な空気をほんの少し取り込みつつも、あくまで原曲の魅力を損なわない絶妙なさじ加減。小気味いいテンポの繋ぎ、無駄のない展開、そして植木の飄々とした歌声。

メドレーという形式であるにもかかわらず、一本の作品として破綻なく聴かせてしまう構成は圧巻だ。何より、植木の声には“軽さの奥にある誠実さ”が宿っている。笑わせるために歌っているようで、実はどこかで聴く側の肩の力をそっと抜いていく。この温度感が、平成の喧騒に疲れ始めた人々に妙に刺さったのだ。

昭和のスターが、平成を軽やかに駆け抜けた理由

収録曲のほとんどはすでに誰もが知る名曲だったが、それを平成仕様のメドレーとしてまとめ直したことで、若い世代は“新鮮さ”を、上の世代は“懐かしさ”を感じ取るという稀有な現象が起きた。

“知っているはずの曲なのに、また聴きたくなる”

その感覚を生んだのは、植木等という人がただの歌手でもコメディアンでもなく、“空気を変える人”だったからだ。

今聴いても、ただのコミックソングという枠には収まらない。言葉遊びのセンス、バンドアレンジの粋さ、ユーモアの鮮度、そして植木の呼吸。そのすべてが、平成の音楽シーンの中でも異質なほど活き活きとしている。

時代を超えて軽やかに笑う、その声の強さ

1990年の冬。街に浮かぶネオンと、どこか寂しげな空気の交差点。そこにスーダラ節の“陽気さ”がひょいと顔を出すだけで、気持ちがふっと軽くなる。小さな希望を、植木等は平成の日本にもう一度届けてくれた。

時代が変わっても、彼の歌声が持つ“肩の力の抜け方”はいつまでも古びない。だからこそ、このメドレーはただの総集編ではなく、“平成に生まれ直した昭和の名作”として今も輝き続けているのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。