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20年前、偉人の名曲をサンプリングした“遊び心”  「茶目っ気」を仕掛けたワケ

  • 2025.11.29

「20年前、あの街角で何が鳴っていたか覚えてる?」

2005年の冬。イルミネーションが光に包まれる一方で、街の空気はどこか落ち着き始めていた。若者たちは“ミクスチャー”や“クラブ系”という言葉に胸を躍らせていた頃。そんな年末のざわめきの中で、「え、これをサンプリングしちゃうの?」と多くのリスナーを驚かせた1曲がある。

KREVA『国民的行事』(作詞・作曲:KREVA)――2005年12月7日発売

モーツァルトの名曲『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を大胆に取り込みながら、HIP HOPとしてのアイデンティティを強烈に刻み込んだ意表を突くシングルだった。

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2024年、プロ野球「西武対楽天」セレモニアルピッチを務めたKREVA(C)SANKEI

静かな冬に響いた“遊び心の衝撃”

KREVAと言えば、その卓越した言葉選びと柔軟すぎるリズム感でシーンを牽引してきた存在だ。そこで放たれたのがこの『国民的行事』。クラシックを全面的にサンプリングするという発想は、海外を中心に盛り上がりつつあったが、邦楽HIP HOPにはまだまだ少ないアプローチだった。

重厚さや格式の高さを持つ旋律に、KREVA特有の軽やかなビートが重なり、ふたつの質感が自然と溶け合う。決して奇をてらうのではなく、“こうすればクラシックも踊れる”と言わんばかりのバランスで、新しい音の風景が描かれていった

KREVAの“声”が際立つ、抜けの良いサウンド

楽曲の魅力の中心にあるのは、やはりKREVAのラップだ。硬すぎず、砕けすぎず、「言葉そのものにちゃんとリズムが宿っている」と感じさせる独特の滑らかさ。この曲ではその“声”がさらに映えるように、過度な装飾を避けながらも芯のあるビートが支えている。

モーツァルトのフレーズが鳴った瞬間、空気がふっと切り替わる。その上をKREVAの声がすっと走り抜けるだけで、曲全体が驚くほどモダンになる。クラシックの重心を生かしながら、自分のビートに引き寄せる。そのバランス感覚こそ、彼のプロデュース力の高さを証明している。

“国民的行事”というタイトルが意味する遊び

この楽曲が面白いのは、音だけでなく、タイトルにもKREVAらしいユーモアが込められていることだ。

「国民的」という言葉は本来、アニメや歌謡曲、スポーツのスターなど、幅広い世代が共有する存在を指す。しかしこの曲では、その言葉がちょっとした“茶目っ気”として機能している。

まるで「自分の音楽を、みんなの生活の小さな“行事”にしてしまおう」という冗談めいた宣言のようでもあり、その軽さが絶妙だ。重厚さと軽やかさ。権威と遊び。クラシックとHIP HOP。

本来は相反するはずの要素が、KREVAの手の中でさりげなく結びついていく。その気負わないスタンスが、曲に独特の中毒性を与えている。

サンプリングという技術を“楽しさ”に変えた一曲

当時、HIP HOPのサンプリング文化はすでに浸透していたものの、ここまで“わかりやすく”“誰もが耳にしたことのある旋律”を正面から取り込む例はそこまで多くなかった。

しかしKREVAはそれを音楽的な挑戦というより、むしろ「音で遊ぶ」という感覚で落とし込み、シンプルで聴きやすいポップ感へと昇華させた。この軽やかさこそ、KREVAの音楽が幅広い層に受け入れられる理由なのだと思う。

20年後に聴き返すと見えてくるもの

今あらためてこの曲を聴くと、クラシックの旋律にビートが重なった瞬間、当時の街の空気がふっと蘇ってくる。「音楽はもっと自由でいい」というKREVAのメッセージのようなものが、さりげなく胸に残る。

20年前の師走に響いたこの曲は、奇抜でありながら、どこか普遍性を持っている。クラシックをHIP HOPに引き寄せた遊び心は、今でも新鮮に聴こえるし、その自由さに触れたとき、人は少しだけ前向きになれる。

『国民的行事』は、当時の空気とKREVAの柔らかな挑戦が刻まれた、冬の小さな記念碑のような一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。