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30年前、人気芸人が仕掛けた“コンプラ度外視の名品” 「パロディ」なのに本格派なワケ 

  • 2025.12.6

「30年前、深夜の街でどんなビートが鳴っていたか覚えてる?」

1995年の終わり。ネオンの光は少しだけ色あせ始め、カルチャーはどこか“肩の力が抜けた方向”へと傾きつつあった。笑いと音楽が混ざり合い、テレビでもクラブでも“遊び心”が時代を牽引していた頃だ。そんな空気の中で、ひときわ鮮烈な衝撃として降ってきたのがこの一曲だった。

KOJI1200『ナウ ロマンティック』(作詞:KOJI IMADA and TOWA TEI・作曲:TOWA TEI)――1995年12月6日発売

お笑い界の人気者が放つ“ネタ曲”と思いきや、その裏側に潜むサウンドの完成度に、当時のリスナーは少しだけ戸惑い、そして夢中になった。

※ネット上では漫画家の岡崎京子作詞との表記が一部見られるが、当時のCDには今田耕司とテイ・トウワによる共作としてクレジットされている

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今田耕司-1997年撮影(C)SANKEI

ネオンの下で生まれた、異色すぎるデビュー

KOJI1200(コウジ トゥエルブ ハンドレッド)は、TOWA TEIプロデュースによる今田耕司のアーティストワークだ。『ナウ ロマンティック』はそのデビュー曲であり、後の音楽バラエティ的な存在感を象徴する最初の一歩となった。

曲のベースになっているのは、80年代ニューウェーブの流れを汲むニューロマンティックのサウンド。煌めくシンセ、軽やかなビート、そして少し仰々しいドラマ性。そこに今田耕司のエンタメ的なテンションが乗ることで、本来はクールなジャンルが突如として“お祭り騒ぎ”へと変貌する。

当時のテレビとクラブカルチャーが混じり合う時代感を、そのまま一曲に閉じ込めたような存在だった。

軽さの裏に仕込まれた“テイ・トウワの本気”

この曲の最大の衝撃は、表面的には完全にふざけているのに、耳に残るサウンドは圧巻のプロ品質だったことだ。

TOWA TEIといえば、アメリカでDeee-Liteとしてデビューして世界的ヒットを飛ばし、1994年には『Future Listening!』でソロ・デビュー、DJとしてフロアをわかせる正真正銘のクラブDJ。その彼が遊びとは思えないほど緻密にビートを構築し、シンセを重ね、リズムを磨き上げている。

「笑わせながら、踊らせる」

この絶妙なバランスが、J-POPにはほとんど存在しない魅力だった。ちなみに前年の1994年に、ダウンタウンが坂本龍一プロデュースで“GEISHA GIRLS”としてデビューした際も、テイ・トウワはデビューシングルの2曲目に『Kick & Loud』という名曲を残している。

そして歌詞。今となっては“絶対に発売できない”コンプラ度の高さが、逆説的に時代を映している。テレビや音楽の表現が今よりはるかに自由で、尖っていて、どこか危うさと勢いが共存していた時代。そんな90年代らしいムードを、この曲は軽やかに体現していた。

“笑い”と“クラブサウンド”が手を組んだ奇跡

『ナウ ロマンティック』は、一見するとただのパロディ曲。そのおふざけ感は、今田耕司という存在が前面に出ている時点で誰もが察するところだ。

だが実際に音を聴けば、キックの抜け、ベースラインのループ感、シンセの艶やかさ、どれもが当時の日本では珍しい“本格クラブ仕様”。つまりこの曲は、“遊び”の皮をかぶった本気のダンスミュージックだった。そのギャップが、30年経った今でも語られる理由のひとつになっている。

さらに当時、クラブ系のサウンドはまだ一般層に十分浸透していなかった。そこへテレビタレントである今田耕司が80年代ニューウェーブの流れを汲むニューロマンティックのサウンドとともに乗り込んだことで、未知のジャンルがバラエティを通じて広く届いていった。テイ・トウワといえば、サンプリングの名手でもあるが、それがゆえに様々なジャンルを見事にサンプリングして、ひとつの形に落とし込んでいる。

結果としてこの曲は、笑いとクラブカルチャーを接続する架け橋のような役割を果たしたとも言える。

時代を超えて残った“おふざけの名品”

今聴き返すと、『ナウ ロマンティック』はひたすら明るくて、奔放で、どこか人懐っこい。90年代のカルチャーが持っていた自由さ、危うさ、そして熱量が、数分の音にぎゅっと詰まっている。

そして何より、表面的に軽く見えても、つくりは本気。だからこそ、ただのネタ曲として消費されず、長く語り継がれてきたのだろう。

あの頃の深夜の街を照らしていたネオン。笑いとビートが混ざり合う空気。ふざけているのに、なぜか妙にカッコいい感覚。時代の“遊び心”そのものが刻まれた一曲。

『ナウ ロマンティック』は、そんな1995年の特別な瞬間を、今も鮮やかに思い出させてくれる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。