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20年前、ビジュアル系バンドが「叫ばずに」放った“静かな衝撃” 静かなのに強いワケ

  • 2025.12.5
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※Google Geminiにて作成(イメージ)

「20年前のあの日、どんな冬の匂いがしていたんだろう?」

街のイルミネーションがゆっくりと滲む12月。表通りは華やいでいるはずなのに、心のどこかには冷たい静けさが残っていた。平成の冬はどこか落ち着かなくて、雑踏の奥に“言葉にならない感情”が漂っていたように思う。そんな季節に、一曲のロックナンバーが、そっと、しかし確かな存在感でリスナーの胸に刻まれた。

ガゼット『Cassis』(作詞:流鬼.・作曲:大日本異端芸者の皆様)――2005年12月7日発売

“ガゼット”名義としては最後のシングル。この曲を境に、翌年のアルバム『NIL』からバンド名表記はthe GazettEへと変わっていく。過渡期の只中で、生まれた楽曲だった。

揺れ動く時代に放たれた“静かで強い音”

『Cassis』はテンポを落としながらも緊張感とドラマ性を宿した、ガゼットらしいミディアムチューンだ。音の隙間を活かした構成の中に、静かな高揚と鋭いエッジが同居している。冬の冷たい空気に薄く煙る街灯のように、強さと儚さが同時に浮かび上がってくる。

土台を支えるギターのアルペジオは透明感を帯びつつも、重心は低い。リズム隊の一打が落ちるたび、内側に沈んでいた感情がゆっくりと顔を出す。

RUKIのボーカルは叫ばず、過剰に揺らさず、抑制の効いた歌い回しで旋律を丁寧に描く。その姿勢が却って、“胸の奥にある、まだ言語化されていない感情が掘り起こされていく感覚”を生んでいる。

ガゼット特有の深い陰影はそのままに、音数を絞ることで“静の強度”を際立たせた一曲。それが『Cassis』だった。

名義変更前夜に立つ、“橋渡しの一曲”。

大日本異端芸者の皆様とクレジットされたメンバー全員で作り上げたサウンドは、ユニゾンの強さよりも“まとまりの質感”で勝負している。

いま聴き返すと、『Cassis』は2000年代半ばのビジュアル系シーンにおいても独特の存在だったことがわかる。派手なスピード感でも、ゴシックな装飾過多でもなく、胸の内側をじわりと掘り下げるサウンド。

その温度の低さと強さは、ビジュアル系の潮流の中でも異端で、だからこそ時代を越えて響き続けている。

大きく叫ばなくても、心は動く。激しい音を鳴らさなくても、想いは深く届く。そのことに気づかせてくれるのが『Cassis』だ。

ガゼットが“異端”を掲げていた時代の、静かで鮮やかな決意。冬の街に灯ったその余韻は、今もなお、多くの人の記憶の中でそっと光り続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。