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20年前、異色タッグが灯した“あたたかい余韻” 「派手さ」を捨てて静かに歌ったワケ

  • 2025.12.1
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2023年、「東急歌舞伎町タワー」開業前日セレモニーに登場した東京スカパラダイスオーケストラ(C)SANKEI

「20年前の冬、どんな音が街の冷たい空気に溶け込んでいたか覚えてる?」

息が白く滲む夜道、コンビニから漏れる明かり、ストールの間からこぼれる微かな吐息。そんな静かな季節に、そっと寄り添うように響いていたミディアムナンバーがある。派手に鳴らず、でも確実に心の奥をあたためる音楽。冬にしては珍しく、ゆっくりと胸にしみ込んでくるような一曲だった。

東京スカパラダイスオーケストラ『追憶のライラック』(作詞:谷中敦・作曲:沖祐市)――2005年12月14日発売

東京スカパラダイスオーケストラが、ゲストボーカルにハナレグミの永積タカシを迎えた楽曲だ。

静かな温度で満ちていく“スカパラの冬”

『追憶のライラック』は、スカパラが持つ華やかなブラスのイメージとは少し違う。勢いで押すのではなく、“呼吸の間に落ちてくるような温度感”がある。

沖祐市のメロディはどこか曇り空を思わせる柔らかさを帯び、冬の湿った空気にすっとなじんでいく。派手な高揚ではなく、ささやかな感情の揺らぎを照らすようなライン。旋律がゆっくりすすむたび、街灯の光が伸びていく景色が目に浮かぶ。

谷中敦による言葉は、実体よりも情景を感じさせる佇まいで、具体を語りすぎず、余白の中に切なさを残す。その“言わなさ”に永積タカシの声がするりと寄り添い、透明な温度を与えていく。

永積タカシの声が生んだ“沈黙のなかのあたたかさ”

永積タカシのボーカルは、とにかく“寄り添う”。張らず、飾らず、ただ息の質感さえ音楽に溶け込むような歌い方。冬の夜、窓を少しだけ開けた時に聞こえる外気のような、“そっと触れてくる温度”がある。

その柔らかさが、スカパラの堅牢なホーンセクションと重なった時、音は熱を帯びながらも決して大きく膨らまない。むしろ、感情を抑えたまま深いところまで染み込んでくる。

バンドの骨格はしっかりしているのに、余韻は限りなく軽やか。まるで冬の息が白く揺れながらも、決して消えない光を宿しているようだった。

コラボで積み重なった表現の成熟

この時期のスカパラは、ゲストボーカルシリーズを通して、新しい景色を音楽に取り込んでいた。永積タカシとのコラボは、バンドの表現領域そのものを広げる重要な位置づけにあった。

ホーンの存在感を保ちながらも、ボーカル曲としての“物語性”を強く押し出す。そのバランスが『追憶のライラック』ではとりわけ美しく、特に冬にリリースされたという時期性が楽曲の空気と完璧に合致していた。

タイトルにある“ライラック”の儚いイメージも相まって、聴けば自然と“季節の手触り”が胸に灯る。

冬の記憶がほどけていくような余韻

いま聴き返すと、『追憶のライラック』は2005年の空気というより、もっと普遍的な“冬の情緒”を閉じ込めた曲のように感じられる。

派手ではない。風を切るわけでもない。ただ、静かな夜の片隅で、心をゆっくりとかしていく。そしてふと、“あの頃の冬の匂いを、もう一度吸い込みたくなる”。

そんな不思議な引力を、今でも確かに持ち続けている。冬の街角で、息を白くして歩いたあの日の自分を思い出す。音楽が季節と記憶をつなぎとめてくれる瞬間。その余韻を、今もこの曲がそっと灯してくれる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。