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36年前、“冬の優しさ”を音にした30万ヒット クリスマスソングじゃないのに“冬の定番”になったワケ

  • 2025.11.30

「36年前の冬って、どんな空気が街を包んでいたんだろう?」

1989年冬。年の瀬の匂いはどこかせわしなく、それでも街の明かりはやさしく揺れていた。時代の熱が落ち着き始めたこの頃の日本では、駅前のイルミネーションやショーウィンドウに飾られたリボンが、ほんの少しだけ未来の期待をにじませていた。そんな冬の空気を切り裂くように、まっすぐなバンドサウンドで駆け抜けていった一曲がある。

JUN SKY WALKER(S)『白いクリスマス』(作詞:宮田和弥・作曲:森純太)――1989年11月21日発売

ランキング初登場1位を記録した彼ら3枚目のシングルは、翌年に再発売されるほどの支持を集め、累計で30万枚以上を売り上げた。松下電器産業「CDラジカセ」CMソングとしてテレビからも流れ、クリスマスが近づく季節には、街のどこかでふいに耳に入ってきた記憶を持つ人も多いだろう。

冬の静けさに寄り添う“まっすぐな温度”

JUN SKY WALKER(S)は当時、飾らないバンド像そのものが若者の象徴だった。肩肘を張らず、ストリートの延長線にあるような、生活と地続きのロック。バブル期のキラキラした華々しさとは対照的に、彼らの音楽には“日常にあるリアルな優しさ”が宿っていた。

『白いクリスマス』は、そんな彼らの魅力が柔らかく溶け込んだロックバラードだ。一般的なクリスマスソングのような壮大さではなく、冬の静けさに身を寄せるような素朴な温もり。その空気感が、当時の街の雰囲気と驚くほど自然に重なっていた。

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2016年、アルバム『FANFARE』発売ライブを行ったJUN SKY WALKER(S)(C)SANKEI

音の隙間から染み込んでくる“あたたかい透明”

この曲を聴くとまず印象に残るのは、ギターを中心にしたシンプルなサウンドだ。派手に鳴らすわけではなく、冬の空気のようにすっと広がる音の余白。その余白の中に、少しだけ切なさを抱えたメロディが優しく漂っていく。

宮田和弥の歌声は、感情を“まっすぐに流す”タイプだ。高すぎず低すぎず、空気に溶ける温度で響く声。その声が、冬の澄んだ空気と溶け合う瞬間、胸の奥が静かに熱を帯びるような感覚がふっと蘇る。

森純太のメロディは、華美な展開をせず、寄り添うように進んでいく。ギターバンドならではの素朴さと、季節の切なさを乗せる懐の深さが同居しており、そのバランスがこの曲の空気を生んでいる。

ロックバンドが鳴らした“冬の優しさ”

バンドサウンドでありながら、音はすべてが主張しすぎず、互いに隙間を譲り合うように鳴っている。その控えめなダイナミクスの中に、当時のJUN SKY WALKER(S)が持っていた“若さのまっすぐさ”が宿っていた

1980年代後半のロックシーンは、激しさや派手さが注目されがちだった。しかし『白いクリスマス』はその流れとは少し距離を置き、“静かなロックの良さ”を示していた。

冬の冷えた空気の中で、あえてスピードに頼らず、心の距離にそっと寄り添うロックナンバー。それこそが、この曲が長く愛される理由のひとつだろう。

再発売が物語る“世代を越える共感”

翌1990年に再発売されたという事実は、この曲がその年の冬だけで終わらなかった証拠だ。CMで流れたことで広い層に認知され、バンドファン以外にも届いていった。ランキング1位という結果以上に、冬の街で自然と耳に入ってきた“聴く場面の多さ”が、曲の記憶を強くしたのだと感じる。

1989年は、時代の転換点にあたる年だった。迷いと期待、静けさとざわめきが同居していたあの冬。その空気の中で鳴った『白いクリスマス』は、派手でも劇的でもないからこそ、より深く心に留まり続けた。

今も冬を連れてくる“あのイントロ”

『白いクリスマス』は、雪の降る夜のドラマティックさよりも、帰り道の白い息や、街灯の下の静けさ、人の気配が減った夜の交差点に似合う曲だ。

だからこそ時が経っても、冬が来るたびにふいに思い出される。“寒さの中でふっと灯る、あの小さな温もり”その記憶とともに、今もこの曲は鳴り続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。