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スルスルやせられるがハイリスク…糖尿病と肥満症の専門医が教える「手を出してはいけないダイエット」

  • 2025.10.30

今、医療ダイエットがブームだ。特にマンジャロなどの2型糖尿病の薬でやせる方法が人気を博している。肥満症専門医で糖尿病専門医の神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門特命教授の小川渉さんは「副作用や健康被害について不明な点が多く、すすめることはできない」という――。(聞き手・構成=石川美香子)

インスリン注射のイメージ
※写真はイメージです
「やせ薬」として人気の糖尿病薬の種類

今、2型糖尿病や肥満症に使われる治療薬を「やせ薬」として使うダイエットがブームです。これには強い危惧を感じます。というのも、2型糖尿病や肥満症でない人が安易にこれらの薬を使用するのは、さまざまなリスクを負う行為だからです。そこで、長年にわたって糖尿病や肥満症の診療に携わってきた肥満症専門医・糖尿病専門医の立場から見て、これらの薬によるダイエットにはどのようなリスクがあるかについて、お話ししたいと思います。

現在、やせ薬としてよく使用されている糖尿病薬は、代表的なものとして「マンジャロ(有効成分:チルゼパチド)」「リベルサス(有効成分:セマグルチド)」などのGLP-1関連受容体作動薬と、「カナグル(有効成分:カナグリフロジン)」「ルセフィ(有効成分:ルセオグリフロジン)」「スーグラ(有効成分:イプラグリフロジン)」などのSGLT2阻害薬があります。

このほか、サノレックス(有効成分:マジンドール)という薬もありますが、やせ薬として広く使われているわけではなさそうです。というのも、サノレックスは神経に働きかけて食欲を抑制しますが、他の薬剤に比べ、効果はそれほど強くありません。

ダイエットに使われるようになった理由

そもそも、なぜ糖尿病薬がダイエットに使われるようになったのでしょうか。

マンジャロとリベルサスはGLP-1関連受容体作動薬ですが、マンジャロは注射薬で、リベルサスは内服薬。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)というのは、もともと私たちの体内に存在する消化管ホルモンで、食事を摂取すると小腸から分泌されます。この薬はGLP-1の働きを模倣し、膵臓に作用してインスリンの分泌を促し、血糖値が高いときにだけ下げるよう作用するのです。また、マンジャロは、GLP-1に加えてGIP(グルコース依存性インスリノトロピックポリペプチド-1)というホルモンの働きを模倣する作用も持ちますが、GLP-1とGIPは協調して作用を強めることが知られています。

もともとGLP-1関連受容体作動薬は糖尿病治療薬として開発されましたが、食欲抑制による減量効果があることがわかり、肥満症治療薬としても開発が行われました。肥満症を対象とした臨床試験において、マンジャロの成分であるチルゼパチドではおよそ1年半の使用で22%強、リベルサスの成分であるセマグルチドでは13%強の体重減少が報告されています。

一般の医師にとって「敷居の低い」薬剤

このような試験の結果を受け、セマグルチドもチルゼパチドも肥満症治療薬として承認され、それぞれ「ウゴービ」「ゼップバウンド」という商品名で発売されています。これらの薬剤は血糖値が高い時だけ下げる作用を持つので、糖尿病でない人が使用しても血糖を下げすぎるリスクは低く、糖尿病のない肥満者にも使用できるのです。

肥満症治療薬としてのセマグルチドやチルゼパチドは、処方できる施設や処方を受けられる人の条件が細かく規定されています。通常のクリニックなどでは処方できず、流通にも一定の制限が設けられているのです。一方、糖尿病治療薬は、糖尿病患者に対してはどのような医療施設でも処方できるので、一般の医師にとって「敷居の低い」薬剤といえます。このような事情から、糖尿病治療薬を適応外で減量のために使用するという流れが広まったものと考えられます。

もう一つのカナグルなどのSGLT2阻害薬は、腎臓から糖を尿に排出することで血糖値を下げる薬です。副次的な作用として体重が少し減少します。臨床試験では約6カ月程度の使用で平均2~3kgの体重減少がみられていますが、減量効果としては強いものではありません。

糖尿病・肥満症以外での有効性や安全性

まず強調したいのは、これらの薬剤は2型糖尿病や肥満症以外での有効性・安全性の検討は行われていないということです。

どんな薬剤でも、一定の頻度で有害な副作用が起こります。臨床試験によって、薬の使用によるメリットが副作用のデメリットを上回ると判断された場合、初めて薬としての販売が認められます。2型糖尿病や肥満症でない人が、どのくらいの量を、どのくらいの期間使えば、どのくらい体重が減るのかという検討はされていませんし、どのような頻度で、どのような副作用が起こるのかということも調べられていません。

マンジャロやリベルサスなどのGLP-1関連受容体作動薬は、一般的にみて、副作用の頻度が高い薬剤といえます。2型糖尿病や肥満症の臨床試験において、6割程度の頻度で吐き気や嘔吐、便秘・下痢といった消化器症状などの副作用がみられました。さらに頻度は低いものの、急性膵炎や胆石症といった重篤な副作用も報告されています。また、動物実験で胎児に悪影響を及ぼす可能性が示されているため、妊婦や妊娠の可能性のある女性の使用は禁忌とされています。

GLP-1関連受容体作動薬は、少なくとも2カ月に一度程度は受診し、身体診察や血液検査で、効果や副作用を確認しながら使う薬です。特に肥満症治療に使用する場合は、厚生労働省のガイドラインでは食事や運動の指導を受けながら、月に1回の診察がすすめられています。生活習慣の指導なしに、薬剤の効果のみに頼った治療では、効果が不十分となり、副作用も強く出る可能性があるためです。特にすでにやせている人や小柄な人では、副作用はより重く出やすいのではないかと危惧されています。

なお、カナグルなどのSGLT2阻害薬は、女性の場合は副作用として尿路感染症やカンジダといった感染症が起こりやすい傾向があるとされます。尿に糖分を出すため、菌が増殖しやすいためと考えられています。

体重計を見て悩む女性
※写真はイメージです
低体重が心身に及ぼすさまざまな悪影響

こうしたやせ薬ブームでの中心的な使用者である日本の若い女性の多くは決して太り過ぎではないばかりか、「やせ」の方も多いとされています。日本の20代女性の約20%は体格指数のBMIが18.5未満で「やせ(低体重)」に分類されており、これは先進国の中でも突出して高い割合です。

それなのに特に若い女性のあいだで糖尿病薬ダイエットが流行するのは、SNSやファッション誌、メディアなどを通じた「やせ=美・努力」という価値観が日本の若者の間で根強く浸透し、強い痩身願望があることも一因と思われます。日本は痩身願望の低年齢化が進んでいます。内閣府の研究班による調査では、すでに小学校高学年の女子児童の半数以上に「やせたい」という願望があるそうです。社会的な問題として、対応策を考えていかなければならないでしょう。

低体重や低栄養は心身にさまざまな悪影響を及ぼします。生理不順などの月経周期異常や貧血、低栄養による疲労感や抑うつ症状のほか、筋肉量が減って筋力が低下する「サルコペニア」のリスクも高まります。10~20代は骨量がもっとも増える年代ですが、この時期に低体重だと骨量が十分に増加せず、将来の骨粗鬆症にもつながりかねません。

そして月経周期異常は、妊娠しにくさにつながります。不妊で悩む方が増えている背景に、若い女性の過度な「やせ志向」が関与する可能性も指摘されています。また、妊婦さんが低体重の場合、体重増加が不十分な状態で生まれる「低体重出生児」のリスクが高まります。低体重出生児は成人後、糖尿病や肥満を発症しやすいとれています。つまり、次世代にまでリスクが生じてしまうのです。

自由診療の薬は補償が受けられない

なお、保険診療において2型糖尿病の薬を処方されるのは、2型糖尿病と診断され、食事療法や運動療法を行っても血糖値の改善が不十分であり、医師が必要だと判断した場合のみ。肥満症治療薬の使用にも、同じように保険診療上の詳細な規定があります。それ以外の人が糖尿病薬や肥満症治療薬を使用する場合は保険適応外で、自由診療の枠組みで処方されるのです。

この自由診療で薬を処方された場合、「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となります。医薬品副作用被害救済制度とは、薬の副作用によって入院治療が必要になるなど、重篤な健康被害が生じた場合に、救済策として医療費や年金などを給付する公的な制度です。保険診療で処方された医薬品を適正に使用した場合には対象となりますが、自由診療や個人輸入の薬は自己責任となります。

また、よくある「医療ダイエット」を専門とするオンラインのみの診療所で購入した場合は、実際にクリニックがあるわけではないので住所や電話番号の記載がないことも多く、副作用が出たときの責任の所在も曖昧になりやすい点にも注意が必要でしょう。

カプセル薬とコップの水
※写真はイメージです
保険診療としての「肥満症治療」

肥満症の場合には、先に述べたように保険診療下でGLP-1関連受容体作動薬が使われることがあります。「肥満症」は単なる「肥満」とは異なり、BMIが一定以上で、特定の合併症を持つ場合など、医学的に「病気」と定義される肥満のこと。

肥満症外来において、肥満症治療薬はあくまで生活習慣改善を支える補助的な存在です。2カ月に1回以上の栄養相談・外来診療で体重減少が見込めるかどうか、最初の6カ月間は療養相談をしながら減量を進めます。管理栄養士による栄養指導を受け、食事内容に問題があれば改善します。それでも減量効果が乏しければ、肥満症治療薬の導入を検討するという流れです。

薬で食欲を抑えながら、カロリーや栄養バランスを考えた食事、適度な運動、十分な睡眠という健康的な生活習慣に改善します。そうした習慣が身につけば、いずれ薬をやめてもリバウンドしにくく、体重を維持できる可能性が高くなります。

肥満症の治療では、肥満の程度が軽い場合は1カ月に体重の1%弱、高度肥満の場合でも2%程度のスピードの減量がすすめられています。チルゼパチドの臨床試験では22%強という強い減量効果示されていますが、これは約1年半にわたる治療の結果であり、ならしてみれば1カ月に1%強の減量となります。これより早いスピードでの減量では、薬剤の副作用に加え、減量自体がもたらす副作用の頻度も増えると考えられています。例えば、体重70kgの人が1年半かけて体重の20%、つまり14㎏程度の減量を目指すなら、1カ月当たり約700g程度の減少となります。体に負担をかけずに減量をする場合、1カ月で落とすべき体重はその程度です。

自分にとって適切な体重を考えるべき

このように医療としての減量は、医療者とともに行えば、肥満症の人など、本当に減量が必要な患者にとっては大きな助けになります。自由診療によるGLP-1関連受容体作動薬の処方を、承認された薬剤を使うというだけで「医療ダイエット」と呼ぶこともあるようですが、これは効果や安全性が確認された「医療」ではありません。

肥満のない人が美容目的で薬を利用して短期的にやせようとしても、リバウンドしやすいうえに、副作用リスクを抱えてしまう可能性もあります。GLP-1関連受容体作動薬は、一定のリスクを持つ薬剤であり、その使用に当たっては、本来、定期的な受診による診察・検査が必要であることを忘れないでいただきたいと思います。

肥満症には該当しないとしても、肥満が気になる人が「もう少しスリムになりたい」と思う気持ちは理解できます。それでも医療者の立場からお伝えしたいのは、「肥満」が健康のリスクであるのと同じように「やせ」や「低体重」も健康リスクにつながること、また減量という行動自体がリスクを伴い得るということです。

健康維持という観点からも、自分にとっての適切な体重について、いま一度考えてみていただきたいと思います。

聞き手・構成=石川美香子

小川 渉(おがわ・わたる)
医師、神戸大学大学院特命教授
1959年京都生まれ。1984年神戸大学医学部卒業。1991年から1994年米国スタンフォード大学分子薬理学教室留学。2014年から2025年まで神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科教学教授を務め、現在、同研究科 橋渡し科学分野代謝疾患部門特命教授。日本肥満学会常務理事、肥満症治療薬の安全・適正使用に関するワーキンググループ長、日本糖尿病学会理事などを務める。日本糖尿病学会糖尿病専門医・研修指導医、日本肥満学会肥満症専門医・指導医。

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