難役なのに「上手すぎ」「絶妙」８年前の朝ドラで映像デビュー、“日本舞踊家”出自の女優が話題に『イイワル』

土曜ドラマ『良いこと悪いこと』で、視聴者の間に驚きと絶賛が広がっているキャラクターがいる。間宮祥太朗と新木優子のW主演による同級生サスペンスのなか、学級委員長・小林紗季役を演じる藤間爽子だ。彼女の存在感は“脇役”にとどまらず、むしろ物語の熱源として全編を攪拌しているといっても過言ではない。

“静かな激情”を演じられる女優

かつて『silent』で主人公の親友役、『マイファミリー』での犯人役、『ひよっこ』での映像デビューなどで話題を集めてきた藤間爽子。今回の『良いこと悪いこと』では、その積み上げた経験と演技力が、爆発的な力を持ってドラマの緊張感を引き上げている。SNSでも「演技上手すぎ」「やっぱりこの人しかいない」「絶妙」との声が続出している。まず注目すべきは、彼女が演じる“怒り”や“狂気”の質だ。

たとえば第6話、世間から犯人扱いされ、マスコミに追い詰められた園子（新木優子）が、身を寄せたのが藤間演じる紗季のもとだった。「ほんとひどいよね」「正しいことを、しよう」と静かに諭す紗季。その佇まいは、まさに“正義感の権化”だった。ところが、終盤でその優しさは一転。園子を襲撃するという衝撃の展開が待っていた。

この反転を“やりすぎ”に見せないのが藤間の演技の妙である。まるで空気が変わるように、彼女の眼差しが変わる。言葉数は少なく、動作は最小限。しかしそこに張り詰めた怒りと痛みが滲む。その抑制された芝居は、舞台で鍛えた“間”の力に支えられているように思える。

彼女の出自は日本舞踊・藤間流の名跡を継ぐ家系であり、舞台女優としてのキャリアも豊富。体の重心の置き方や、目線の移動ひとつが、深い心理描写につながっているのだ。

「この人しかいない」と思わせる、リアリティと“ズレ”の絶妙なバランス

小林紗季というキャラクターは、完全な“悪”でもなければ、まっとうな“正義”でもない。だからこそ、演じるうえではやりすぎてもいけない、やらなさすぎても伝わらないという難しさを内包している。

藤間は、まさにこの中間領域を生きている。たとえば、園子を守ろうと正論を並べる場面。その言葉の一つひとつには正しさがあるように見えるのに、どこか“ズレている”違和感が残る。視聴者は気づかぬうちに彼女に警戒心を抱き、そして次の瞬間にはその“違和感”が暴発の伏線だったと知る。

彼女は“善意の暴走”を、正面からは見せていない。どこか哀しげで、人知れず無理をしているような雰囲気が漂う。その“揺らぎ”が、観る者に“委員長はただの悪者じゃない”という複雑な感情を抱かせるのだ。

つまり、演技の技術だけでなく、感情の“グレーゾーン”を正確に捉えるセンスがある。だからこそ、こうした難役に「やっぱりこの人しかいない」と思わせる説得力が生まれる。

“委員長”のその後が気になる。物語に深みを与える藤間爽子の現在地

『良いこと悪いこと』の魅力のひとつは、誰もが怪しく見え、全員が加害者にも被害者にもなり得る群像劇であること。簡単に善悪がひっくり返る世界観において、小林紗季という人物は、物語の起点でありながらも未解決のまま、未だに“核心”には触れきっていない。

園子を襲った彼女の動機は何だったのか？ 本当にただの嫉妬なのか？ それとももっと深い傷や、過去の贖罪が関係しているのか……その“空白”が、視聴者の想像力をかき立てる。

このように、言葉で説明しきれない役に命を吹き込める女優は、実はそう多くない。藤間は、空白を“演じる”ことのできる希有な存在だ。だからこそ、彼女が画面に登場するだけで、物語の温度が変わる。

視聴者が彼女の芝居に惹かれるのは、上手いからだけではない。その“上手さ”が、決して技巧に走らず、常に役と一体化し、物語の呼吸とリンクしているからだ。

かつて『silent』では、誰よりも主人公の気持ちに寄り添う親友役で共感を集めた彼女が、『良いこと悪いこと』では、痛みと狂気を背負う“委員長”として物語を動かすキーパーソンに化けた。

これから先、小林紗季は物語の“黒幕”なのか、それとも“犠牲者”なのか。その真相以上に、藤間という女優がどんな“感情”を生きてみせるのか。そこにこそ、このドラマ最大の見どころがあるはずだ。

---

日本テレビ系『良いこと悪いこと』毎週土曜よる９時放送
TVerでは最新話を配信中
https://tver.jp/series/sr97rekpee

ライター：北村有（Kitamura Yuu）
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X（旧Twitter）：@yuu_uu_