1. トップ
  2. 残された話数でどこまで“踏み込む”のか? 亭主関白思考の化石男が“古い価値観”と向き合う話題作【火曜ドラマ】

残された話数でどこまで“踏み込む”のか? 亭主関白思考の化石男が“古い価値観”と向き合う話題作【火曜ドラマ】

  • 2025.11.28

話題作の多い2025年秋クールのテレビドラマだが、一番の盛り上がりを見せているのは『じゃあ、あんたが作ってみろよ』だろう。

※以下本文には放送内容が含まれます。 

undefined
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第6話より(C)TBSスパークル/TBS

本作は、若いのに亭主関白思考の化石男・海老原勝男(竹内涼真)が、恋人の山岸鮎美(夏帆)にプロポーズしたが断られてしまい、別れを切り出されるところから始まる恋愛ドラマ。
鮎美のことが忘れられない勝男は、彼女の得意料理だった筑前煮を自分で作ってみようと考える。
中々、彼女の作った筑前煮の味にならずに試行錯誤を繰り返す中で勝男は、鮎美が自分のためにどれだけ手間暇をかけて料理を作ってくれたかに気付く。

その後、失恋の悲しみを埋めるかのように、勝男は料理作りに没頭するようになる。
そして、マッチングアプリで知り合った女友達や会社の後輩とも料理を通して親交を深めることで人間として成長し、これまでの自分の振る舞いを反省していく。

一方、鮎美も、どうしたらモテるのかを第一に考えてきた生き方を反省し、自分らしい生き方を模索するようになる。
髪をピンクに染めた鮎美は、美容師の吉井渚(サーヤ/ラランド)の家に居候していたが、ある日、酒屋で働くミナトくん(青木柚)と知り合う。 自分の気持ちをストレートに伝えてくれる優しいミナトくんのことを鮎美は好きになり、やがて一緒に暮らすようになる。

勝男のクソ男っぷりに注目が集まった第1話。

undefined
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第6話より(C)TBSスパークル/TBS

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、古い価値観に縛られた男女の恋愛模様に料理の話を組み合わせることで、万人が楽しめるラブストーリーに仕上がっている。
第1話終了後、本作に大きな注目が集まったのは、勝男の化石男っぷりがあまりにひどかったからだ。亭主関白思考を内面化させた勝男は、料理は女が作るもので、インスタントなど論外だと思っている。
そのくせ、鮎美の手料理に対しては「全体的におかずが茶色すぎるかな」「もうちょっと彩りを入れた方が良い」と、上から目線で馬鹿にしたような発言をする。
鮎美や会社の後輩に対して苦言を言う時の、少し声が籠る口調と薄ら笑いを浮かべた表情がとても不快で、観ていてイライラとする。
『陸王』や連続テレビ小説『ひよっこ』で、さわやかな好青年を演じていた竹内涼真が、こんな嫌な男を演じ、それが見事にハマっていたことに、とても驚いた。

坂元裕二脚本の恋愛ドラマ『最高の離婚』を筆頭に、無神経なクソ男の振る舞いを批判的に描くテレビドラマは多数存在する。
そういったクソ男の振る舞いは、恋愛や結婚におけるあるあるネタとして定着しているため、ドラマで描くと、とても盛り上がる。

だが、リアルに描きすぎると不快感が強まってしまい、視聴者が離れてしまう。
そのため、扱いがとても難しいのだが、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の勝男の見せ方は、バランスが絶妙で、描き方がとても上手い。

第1話でクソ男っぷりが話題になった勝男だが、実は本当の意味で、酷い発言や振る舞いをしているのは序盤だけで、物語が進むにつれて自分の振る舞いを反省し、どんどん変わっていく。

また、勝男が憎めないのは、口では人のやっていることを見下して、馬鹿にしたようなことを言うが、その後、自分でやってみようと考えるところだ。
スマホで料理のレシピを見ながら慣れない手つきで料理をする勝男の姿は滑稽で、一見カッコ悪くみえる。だが、人の作る料理を馬鹿にするくせに自分では作ろうとしない人間と比べると100倍マシで、作ったことがない料理に挑戦したこと自体は立派だと思い、ついつい応援したくなる。

第2話以降も、勝男は様々な料理にチャレンジすることで成長していく。
『最高の離婚』を筆頭に、クソ男を描いたドラマは、男たちの変われない姿を露悪的に見せる傾向が強かった。 だが、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、物語前半を終えた時点で、勝男の考え方は大きく変化し、見事に成長している。

勝男が変わっていく姿はとても爽快で、そこに多くの視聴者がドラマ性を感じたからこそ、本作は秋クールドラマ最大の話題作となったのだろう。

一方、鮎美は、結婚に対する考え方の違いが原因でミナトくんとも別れてしまう。
一人になった鮎美は、改めて自分の生き方を見つめ直し、今度こそ自分らしく生きることを目指そうと頑張っている。
そんな鮎美が勝男と再び結ばれるかどうかが、ラブストーリーとしては一番の見どころなのだが、二人の人間的な成長については前半の時点でかなり描き切ってしまったと、言えるだろう。

では、残りの後半戦で、本作は何を描こうとしているのだろうか?

勝男は家族とどう向き合うのか?

undefined
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第6話より(C)TBSスパークル/TBS

本作を観ていて気になるのは、勝男の家族の描かれ方だ。

勝男の家族は大分県で暮らしており、第6話では父の勝(菅原大吉)と母の陽子(池津祥子)が登場したが、なにやら不穏な気配を漂わせている。

勝男の父親の振る舞いは第1話の勝男とそっくりで、あの父親の元で育ったから、勝男が亭主関白思考に染まってしまったことが、よく理解できる。

その意味で彼のクソ男ぶりは本人の問題だけでなく、生まれ育った家庭や土地の影響も大きかったのだろう。

おそらく今後は、海老原家の背後にある、男尊女卑的な価値観そのものと勝男が向き合うことになるのだろう。

自分の考えを変えることはできても、家族や土地に根付いている価値観を変えることは容易なことではない。
自分のルーツと向き合うことは自分自身と向き合うこと以上に困難なことだ。

勝男の成長を前半で描き切った本作だが、勝男が内面化した男らしさの本丸といえる家族や土地の問題に、どこまで深く踏み込むことができるのか? 後半戦が楽しみである。


TBS系 火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』毎週火曜よる10時

ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。