1. トップ
  2. エンタメ
  3. 「NHKおみごと」「まさかすぎる」同じ局だからこそ際立った“偶然とは思えない”仕掛けに視聴者沸き立つ【朝ドラ】

「NHKおみごと」「まさかすぎる」同じ局だからこそ際立った“偶然とは思えない”仕掛けに視聴者沸き立つ【朝ドラ】

  • 2026.6.25
undefined
『風、薫る』第12週(C)NHK

『風、薫る』第59話で、バーンズ先生(エマ・ハワード)と卒業生たちが英語で歌った『蛍の光』。その場面に、SNS上は「NHKおみごと」「まさかすぎる一致」「粋な演出」と反響が寄せられた。思い出されたのは、現在再放送中の朝ドラ『マッサン』である。どちらの作品にも、スコットランド出身の女性が重要人物として登場し、『蛍の光』の原曲である『オールド・ラング・サイン』が、別れと絆を象徴する歌として響いている。

※以下本文には放送内容が含まれます。

バーンズ先生が残した最後の贈り物

『風、薫る』第59話では、りん(見上愛)、直美(上坂樹里)、多江(生田絵梨花)、喜代(菊池亜希子)、しのぶ(木越明)、トメ(原嶋凛)ら、看護婦養成所1期生の卒業式が描かれた。厳しい実習を乗り越えた彼女たちに、校長の梶原敏子(伊勢志摩)から卒業証書が手渡される。ようやくたどり着いた晴れの日。しかし、そこにバーンズ先生の姿はなかった。

卒業生たちは梶原から、バーンズ先生が今日を最後に帰国すると知らされる。何も聞かされていなかった彼女たちは、急いで寮の食堂へ走る。そこで待っていたのは、すでに養成所を退所したゆき(中井友望)と、見習い生たちのためにアップルパイを焼いていたバーンズ先生だった。

この場面が胸を打つのは、バーンズ先生が最後に残したものが厳しい訓示ではなく、温かな食卓だった点。清潔、規律、知識、誠実さ。彼女はこれまで、看護婦見習いたちを厳しく鍛えてきた。別れの時間に用意されたのは、初めて口にするアップルパイと、みんなで歌う『蛍の光』。

卒業生たちはアップルパイを味わいながら、英語で『蛍の光』を歌う。日本では卒業式や閉店の印象が強い曲だが、ここではスコットランド出身のバーンズ先生と教え子たちを結ぶ歌として響く。別れの寂しさと、師弟の絆の温かさ。その両方を包み込む、美しい時間だった。

『マッサン』のエリーと重なるスコットランドの歌

undefined
『風、薫る』第12週(C)NHK

この『蛍の光』に、視聴者がすぐに思い出したのは『マッサン』ではないだろうか。現在再放送中の同作は、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝さんと、そのスコットランド人妻リタさんをモデルにした物語。玉山鉄二演じる亀山政春と、シャーロット・ケイト・フォックス演じるエリーが、日本でウイスキー造りに挑む姿を描いた作品だ。

『風、薫る』のバーンズ先生は、スコットランドから日本へやって来た看護教師である。一方『マッサン』のエリーもまた、スコットランド出身の女性だ。どちらの作品でも、異国から来た女性が、日本に新しい文化や知識、精神をもたらす存在として描かれている。

そして両作をつなぐのが、『蛍の光』の原曲であるスコットランド民謡『オールド・ラング・サイン』だ。

『マッサン』でも印象的に使われているこの曲、たまたまなのか、それとも意識的なオマージュなのか。同じNHK“朝ドラ”において、スコットランド出身の女性、旅立ち、英語で歌われる『蛍の光』が重なったことは、偶然であってもあまりに美しい。

別れではなく再会の歌

undefined
『風、薫る』第12週(C)NHK

日本では、別れの歌として親しまれている『蛍の光』。卒業式、旅立ち、何かの終わり。メロディが流れるだけで、胸の奥に寂しさが広がる人も多いだろう。

しかし原曲である『オールド・ラング・サイン』は、スコットランドでは旧友との再会や、ともに過ごした時間を懐かしむ歌でもある。別れの悲しみだけではなく、思い出を分かち合い、また会うことを願う、温かな絆の歌なのだ。

この背景を踏まえると、『風、薫る』第59話の『蛍の光』は、ただバーンズ先生との別れを悲しむ歌ではない。むしろ、彼女が残したものが教え子たちのなかで生き続けることを示す歌だった。

バーンズ先生は日本を去る。けれど、りんたちは看護婦として社会へ出ていく。彼女が教えた清潔の大切さ、患者に誠実に向き合う姿勢、看護婦が尊敬される存在になるという夢は、教え子たちのなかに残る。身体は離れても、志は受け継がれていく。

それは『マッサン』にも通じる。エリーが日本に持ち込んだスコットランドの文化や精神は、マッサンのウイスキー造りを支え、日本の土地に根を張っていった。『風、薫る』では近代看護、『マッサン』では国産ウイスキー。分野はまったく違っても、異国の知識や心が日本で新しい形になっていく物語であることは共通している。

だからこそ『蛍の光』は、両作をつなぐ象徴として響いた。別れの歌でありながら、再会を願う歌。故郷を思う歌でありながら、新しい土地で生きる人を励ます歌。『風、薫る』の歌唱は、“朝ドラ”に流れる“異文化の懸け橋”という大きなテーマを、静かに浮かび上がらせていた。


連続テレビ小説『風、薫る』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

の記事をもっとみる