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35年前、妙にクセになった“茶目っ気フレーズ” 恋のもどかしさを“笑い飛ばす”シニカルポップ

  • 2025.11.14

「35年前の秋、あなたはどんな香りを覚えてる?」

ウールのコートに袖を通すころ、街のショーウィンドウには赤と金のディスプレイが並び、どこか浮き立ちながらも、少しだけ切ない季節。そんな1990年の秋、午後の紅茶のようにやさしく、ほんのりと心を温める1曲が流れていた。

FAIRCHILD『探してるのにぃ』(作詞:YOU・作曲:戸田誠司)――1990年10月21日発売

サントリー「紅茶のお酒」CMソングとしてオンエアされたこの曲は、テレビからふわりと漂う香りのように、聴く人の耳と記憶に残った。派手ではないのに、妙にクセになる。そんな不思議な余韻を残すポップソングだった。

甘くて、ちょっと皮肉な“FAIRCHILDらしさ”

FAIRCHILDといえば、ボーカルのYOUとサウンドメイカーの戸田誠司、ギターの川口浩和による3人組ユニット。80年代後半から90年代初頭にかけて、都会的で洒脱なサウンドと、軽妙なウィットを効かせた詞世界で独自の存在感を放っていた。

『探してるのにぃ』は、そんなFAIRCHILDの世界観が最も洗練された形で結実した楽曲だ。戸田誠司の手によるアレンジは、当時のテクノポップの流れを汲みながらも、どこか柔らかく、丸みを帯びている。シンセの音色に、アコースティックな響きをさりげなく混ぜ合わせた都会的なポップサウンド。聴くほどに“冷たくないデジタル”を感じさせる音作りが印象的だ。

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YOU-1998年撮影(C)SANKEI

YOUが描いた“ちょっと大人の恋のユーモア”

作詞を担当したYOUの言葉には、恋のもどかしさとユーモアが共存している。タイトルの「探してるのにぃ」という語尾の“ぃ”にも、彼女らしい茶目っ気がにじむ。恋に迷う女性の心情を、深刻ぶらずに軽やかに描くその筆致は、まるで午後の紅茶を片手に笑い飛ばすような余裕を感じさせる。

“大人になりきれない大人たち”の軽やかさ――それがFAIRCHILDの真骨頂だった。

恋を語りながらも湿っぽくならず、むしろシニカルな笑いを交えてしまう。そんな距離感が、当時の若者たちにとって“ちょっと先の理想像”でもあったのだ。

“FAIRCHILD”という時代の香り

FAIRCHILDの音楽は、決して大ヒットを狙ったものではなかったと思う。だが、そのおしゃれで少し気取った感性は、後の東京ポップカルチャーの流れを先取りしていたともいえる。音楽とファッション、CM、そして都会的ユーモア――それらを自然に融合させたアーティストは、決して多くはない。

そしてYOUはこの後、タレント・女優として幅広く活躍することになるが、その芯に流れる“FAIRCHILDの美学”はずっと変わらない。飄々としていて、ちょっと辛口。けれど根底には、やさしい情感がある。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。