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カンヌを震わせた“日本の新世代”…黒崎煌代×木竜麻生が語る『見はらし世代』という映画体験

  • 2025.10.10

26 歳の若き日本人映画監督・団塚唯我監督によるオリジナル脚本で描かれた長編第一作『見はらし世代』。第78回カンヌ国際映画祭の監督週間に、日本人史上最年少で選出された本作が、2025年10月10日(金)より全国で公開されます。

そこでこの記事では、本作で主人公・蓮を務める黒崎煌代さんと、彼の姉・恵美を演じる木竜麻生さんをクローズアップ。出演が決まったときの気持ちから、撮影裏エピソード、カンヌ国際映画祭での思い出まで……たっぷり掘り下げてみました。インタビューの中で感じられた、本当の姉弟のようなお二人の軽やかな掛け合いにも要注目です!

母の死と、残された父と息子の関係性を繊細に紡いだ物語

──本作へのご出演が決まったときの気持ちを教えてください。

木竜麻生(以下、木竜) 脚本を読ませていただいた段階で、純粋に面白いなと感じたので、出演できることが嬉しかったです。また、別の作品で黒崎くんとは既に知り合っていたんです。その時は同じシーンはなかったんですけど、素敵な役者さんだと聞いていたので、今回の姉弟役を楽しみにしていました。

黒崎煌代(以下、黒崎) ありがとうございます(笑)。

木竜 そういうときは謙遜するんだよ(笑)。

──(笑)。黒崎さんは本作が初主演ですよね。お気持ちなどはいかがでしたか?

黒崎 本作の出演は、団塚監督から直接オファーをいただきました。もともと監督とは知り合いで、過去作も観ていたんです。だから自分の初主演よりも、団塚さんの1作目(長編デビュー作)に出られるっていうことへの喜びのほうが大きかったです。あと映画ファンとして、『菊とギロチン』あたりから木竜さんが出演されている作品を追ってました。僕も木竜さんとご一緒できることを楽しみにしてました。

──先ほど台本を読んだときの感想も少し伺いましたが、この作品をどう捉えたか具体的に教えていただきたいです。

木竜 家族のお話ではあるんですけど、彼らを取り巻く周りの人物まですごく豊かに描かれている印象です。蓮・恵美、そして彼らの父親である初……それぞれの周りにいる人たちとの関わり方や関係性によって、いかようにもいろいろな見え方があるんだろうな、と。団塚さんの目線がたくさん反映された人物描写はもちろん、団塚さんだからこそこういう脚本なんだな~ということがふんだんに感じられる内容だと思いました。

黒崎 監督の過去作を観ていると、文章に書けないような面白さが8割という印象。だから今作も、脚本だけでは分からない面白さが、絶対にあるんだろうなと思いながら読んでいました。僕は主演ではあるんですけど、それを意識しすぎずに“何もしないこと”を大切にしました。

今までの芝居の魅せ方をそぎ落とした先にある“何もしない美学”

──ここからは役作りについて伺っていきたいと思います。改めて、ご自身の言葉で役柄について述べるなら、どのような印象でしょうか?

木竜 恵美は、日常の些細なこと、例えば何を食べるだとか、どこへ行くだとかを、自分でしっかり考えて選択している人だなと感じています。自分の思いをきちんと言語化して、相手に伝えることができる印象です。作中では、蓮よりも硬さのあるセリフを話す部分も多かったので、ちゃんと恵美の言葉として発せられるよう意識しました。

──共感できたところや、ご自身に似ているなと感じる部分もありましたか?

木竜 恵美と彼女の婚約者・安藤の関係性について、団塚さんと話したときに「恵美が言語化できない支離滅裂な状態のときでも話せるのが安藤」と(団塚さんが)おっしゃっていて。私も普段はきちんと言葉にしようとするんですけど、親密な相手に対してはちょっとまとまりきらない状態でも出しちゃうところがあるかもなって思いました。安藤とのシーンのあの感覚は、自分に近いものを感じます。

──黒崎さんは、蓮に対してどういう印象を持たれましたか?

黒崎 僕が演じる蓮は、普通の何でもない人。ちょっと作中では、ひと事件ありましたけど……(笑)。

木竜 ひと事件(笑)。たしかにあったけど、言葉のチョイスが煌代らしいね(笑)。

黒崎 とにかくひと事件はあったけど、普通の人なんです。僕、普段は芝居でいろいろやってしまうんですけど、今回はそれをそぎ落として“何もしない美学”を徹底してみました。あと蓮という役は、監督の投影だと思っていて。だから団塚さんといっぱいご飯に行って、監督を観察しました。オファーをいただいた時点で、僕も団塚さんに通ずる部分があるんだろうなと解釈していたので、あまりキャラクターを作り込むことはしなかったです。サボっていたというわけではなく、“何もしない”という役作りです!

──何もしないということをする……哲学っぽいですね。監督と価値観が似ているなと感じる部分は多かったですか?

黒崎 めちゃくちゃ多いですね。演出に関する話の中でも、具体的な話はお互い一切したくないんです。ニュアンスで通じ合えるところが大きかったと感じます。でも木竜さんはそれでちょっと困ってましたよね(笑)。

木竜 2人がニュアンスで会話している横で「それでいけるの!?」とすごく思ってました(笑)。でもたぶんこれは、役柄や俳優としての作り方の違いなんだろうなって。だから団塚さんは、私への話し方と煌代への話し方をちゃんと変えてくれていた印象です。

まるで本物の姉弟のような表情・空気感から目が離せない

──映画を拝見して、おふたりが本当の姉弟みたいだなと感じる瞬間が多々ありました。お互いに「姉っぽいな」「弟っぽいな」と感じたことはありましたか?それぞれに対する印象などをお聞かせください。

木竜 まずおそらく顔の系統が似ているんですよね。煌代と一緒に写った写真を、私の家族に送ってみたら「似てるね~!」ってすごく言われました。あと彼はすごく素直です。最初から気さくに話しかけてくれたので、すぐに私もフランクに打ち解けることができました。私はそういう(打ち解ける)のはあんまり上手じゃないんですけど、あっという間でしたね。

黒崎 へ~!そうなんですか?僕の木竜さんへの第一印象は「初対面からすごく心を開いてくれる人だな!」でした。

木竜 それでいうと、私、初対面で煌代に笑われたんですよ。

──何かエピソードがあるんですか?

木竜 この作品への出演が決まった後、何人かでご飯会を開いたんです。「撮影より前に黒崎くんに会える!」って嬉しくて、お店に走って向かったら汗だくになっちゃって。その姿を見て、笑われました。最初にこういうカッコ悪い姿を見られてるし、それを煌代が面白がってくれたから、すぐに馴染めたのかもしれませんね。割とシーンに関する相談なんかもしたように思います。

黒崎 いっぱいアドバイスしました。

木竜 ドヤ顔するな(笑)。煌代は「主演らしいことは何もしていない」ってさっき言ってましたけど、彼が迷わずに蓮を演じていた姿にすごく励まされました。座長としてあるべき姿を無意識的にやっていたんだろうなって、素敵だなって思いました。

黒崎 ここ太字でお願いできますか?(笑)。

木竜 カットしていただいても大丈夫です。

──(笑)。黒崎さんは、木竜さんに対して「姉っぽいな」と感じた部分はありましたか?

黒崎 何でも話せる感じがお姉ちゃんっぽかったです。年上の俳優さんで、こんなにラフに話せる人はなかなかいないんですよね。そういう空気感を出してくれたことがありがたかったです。

木竜 結構ずっとお話してたよね。何を喋ったかは覚えてないくらい、とにかく些細なことで盛り上がってました。

撮影裏は家族仲良好!?遠藤憲一のお茶目な言動に爆笑

──ほかの共演者の方への印象はいかがでしたか?記憶に残っている撮影時のエピソードなどがあれば、教えてください。

木竜 サービスエリアのシーンの話はしたほうがいいんじゃない?(笑)。

黒崎 そうですね。サービスエリアで家族3人が集まるシーンがあるじゃないですか。そのときに遠藤憲一さん演じる父親・初が気まずい空気を打破するべく、一言発するんですよね。娘の恵美に対して「久しぶり」って言う場面だったんですが、「お久しぶり」って間違えてしまって。あの掠れた渋い声で言うものだから、みんなツボに入っちゃったんです(笑)。

木竜 なかなかシリアスな家族の再会シーンだったのにね(笑)。

黒崎 それで結局4回くらい遠藤さんがNGを出してしまって、見かねた助監督が「ここはシリアスなシーンなので真剣にお願いします」と注意しに来たんです。それに対して遠藤さんは「へへ、子役みたいなこと言われちゃったよ~」ってお茶目に言ってました。その瞬間、“遠藤憲一、最強だな”と思いましたね。あの人やばいです。

木竜 私は早々に切り替えて、NGのときに笑わないよう努めていたんですが、撮影後に遠藤さんから「全然笑わなくてすごかったね!どうやってやってるの?」って話しかけられました(笑)。こんな歳下の俳優にもすごくフラットに話してくれるところが素敵ですよね。作中だと私は父親にぶつかっていかなければいけない関係性でしたけど、遠藤さん自身のことはすごく大好きです。あのシーンの撮影、楽しかったな~(笑)。

──あのシーンにそんな撮影裏があったなんて(笑)。遠藤さんの和やかな雰囲気が伝わってきました。

木竜 次のシーンで登場する母親役の井川さんが、優しく見守ってくださっていたのも印象的です。

黒崎 そういえば、井川さんも笑わせにくるんですよ!撮影がないとき、ずっと僕に向かって変顔してきてて。ただ、その変顔は僕にだけ見せてくれるので、キュンとしました(笑)。

木竜 ずっと煌代は、お母さん(井川さん)にメロメロだったもんね。一緒に撮れた写真も、すっごく嬉しそうに見てました。

──本編は重めの雰囲気だったので、今の一連のお話を伺って癒やされました(笑)。

カンヌ国際映画祭を通して気づいたこととは?

──カンヌ国際映画祭でも作品が上映されましたが、現地での反響はいかがでしたか?

黒崎 木竜さんはお仕事でワールドプレミアに間に合わなかったんですよね。僕はフランスの方々と一緒に作品を観たんですけど、やっぱり緊張しました。だけど所々笑っていただける部分がちゃんとあって。フランス人の性質なのか、笑いをこらえようとしないんです。100%で笑ってくれるので、嬉しかったです。

──しっとりと落ち着いた作風だなと個人的には思っていたので、大きな笑いが起きたのは少し意外でした。たしか日本と海外では、笑いが起きるシーンも異なっていたんですよね……?

黒崎 そうなんです。

木竜 私は実際に反応が見れたわけではないんですが、団塚さんや煌代から上映の様子を聞いていて。笑いの感覚の違いは、海外の映画祭に参加したからこそ気づけたことだなと感じました。

黒崎 でもたしかにフランスの方々が笑ってくれたシーンを改めて振り返ってみると、面白いんですよね。海外での反応を知れたからこそ、自分の中の気づきも広がったように思います。

──レッドカーペットの感想や思い出なんかも伺いたいです。

木竜 すごく一瞬でした。

黒崎 それ!僕も同じこと思いました。終わった後に噛み締める……みたいな感じでしたね。

──緊張はされませんでしたか?

木竜 歩いているときはそんなに感じませんでした。レッドカーペットに登場する前のほうが緊張したかも。(黒崎さんに対して)緊張した?

黒崎 レッドカーペットといったらいろいろありますけど、映画人にとっては、やっぱりカンヌは特別な感じがします。緊張というより、夢の舞台だったので単純に楽しかったです。

──カンヌ国際映画祭以外の時間は、どのように過ごされましたか?思い出などがあれば、教えてください。

黒崎 ヴィラマンションみたいなホテルに滞在したんですけど、そこがすごかったですよね。

木竜 ね!プールがあって、広いテラスがあって……という感じで、空間に酔いしれちゃいました。私が到着した時点で、2人(団塚さん・黒崎さん)はもう既に感動が一周しちゃってたみたいですけど……(笑)。ホテルでみんなと一緒に食事するなど、映画祭以外も共に過ごす時間が多かったのが思い出深いです。

再開発が進む渋谷を舞台に、家族の関係を再び見つめ直そうとする姿を描く

──最後に見どころを含め、一言メッセージをお願いします!

木竜 あまり気負わずにふらっと映画館に足を運んでいただいた状態で、作品に触れていただきたいです。そこから何を感じるのか、どこが気になるかなど、観た方の刺激になったら嬉しいです。

黒崎 “見はらし世代”っていうのは造語なんですけど、どういう意味だろう?と思われる方がきっと多いかと思います。作品を観たら、この言葉の意味がなんとなく理解できるんじゃないでしょうか。この“なんとなく”という感覚こそ“見はらす”ことだと、個人的には感じています。この映画を観て、ぜひ一度見はらしてみてください。

(了)

Profile/黒崎煌代(くろさき・こうだい)
2002 年兵庫県生まれ。『さよなら ほやマン』で映画デビューし、日本映画批評家大賞の新人男優賞を受賞。その後 NHK の連続ドラマ『ブギウギ』に出演し、話題となる。更なる活躍が期待されている若手俳優。
黒崎煌代公式Instagram:@kodai_kurosaki

Profile/木竜麻生(きりゅう・まい)
1994年新潟県生まれ。2018年公開映画「菊とギロチン』『鈴木家の嘘』で数々の映画新人賞を受賞。2022年の主演映画「わたし達はおとな』では北京国際映画祭フォーワードフューチャー部門で最優秀女優賞を受賞。NHK夜ドラ「いつか、無重力の宙で」に主演している。
木竜麻生公式Instagram:@maikiryu_official

映画『見はらし世代』作品情報

カンヌ国際映画祭で“日本から届いた小さな奇跡”と評された
団塚唯我のオリジナル脚本による長編デビュー作

東京で胡蝶蘭の配達運転手として働く青年、蓮。幼い頃母を自死で亡くした彼は、そのことを契機にランドスケープデザイナーの父とすっかり疎遠になっていた。
ある日、蓮は胡蝶蘭を都心のギャラリーに届けることになる。そこでは偶然にも父の個展が行われていて、二人は数年ぶりに再会してしまう。母がいた頃に比べランドスケープデザイナーとして権威を獲得していた父は、当時より洒落た服を身につけており、秘書の女性とは親密な関係にあった。父は、母の生前から変わることなく、家庭から背を向けるように仕事に明け暮れていた。
母を失ったことで歪になった家庭を元に戻したいと考える蓮は、姉の恵美に父と再会したことを話すが、恵美は我関せずといった様子で「昔のことなどもうどうでも良い」と、黙々と結婚の準備を進める。そんな家族の状態の中で、蓮は家族の距離を測り直そうとする。

出演 : 黒崎 煌代 / 遠藤 憲一 / 井川 遥 / 木竜 麻生 / 菊池 亜希子
中村 蒼 / 中山 慎悟 / 吉岡 睦雄 / 蘇 鈺淳 / 服部 樹咲
石田 莉子 / 荒生 凛太郎
監督・脚本 : 団塚 唯我
企画・製作 : 山上 徹二郎
製作 : 本間 憲、金子 幸輔
プロデューサー : 山上 賢治
アソシエイト プロデューサー : 鈴木 俊明、菊地 陽介
撮影 : 古屋 幸一 / 照明 : 秋山 恵二郎、平谷 里紗
音響 : 岩﨑 敢志 / 編集 : 真島 宇一 / 美術 : 野々垣 聡
スタイリスト : 小坂 茉由
ヘアメイク : 菅原 美和子、河本 花葉
助監督 : 副島 正寛 / 制作担当 : 井上 純平
音楽 : 寺西 涼
制作プロダクション : シグロ

©2025 シグロ / レプロエンタテインメント
公式ホームページ:https://miharashisedai.com/
映画公式X(旧Twitter):@Miharashi_Movie
映画公式Instagram:@brand_new_landscape
2025年10月10日(金)全国公開

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