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まったく違う二つの顔を持つ生き方【ヤマモトヒロコさん】

  • 2025.10.4

なんのために生まれて、なにをして生きるのか―。

最近、私はNHK連続テレビ小説『あんぱん』にハマり、「アンパンマンのマーチ」が頭の中をループしている。
そのたびに「やなせさん、50歳になってもまだわかりません」と心の中で独りごちてしまう。

「どちらかに絞ったほうがいいのかもしれない―」私が衣装スタイリストのヤマモトヒロコさんに出会ったのは、彼女がセラピストの活動を本格的に始めようとしていた頃だった。
新しい道を見据える姿に心動かされたが、その実、「どっちも中途半端なのでは」と迷っていたという。

きっかけはコロナ禍。
舞台や広告などのスタイリングの仕事が突如、3か月間すべて白紙になった。

「スタイリストはクライアントあっての仕事。最終的には観客を喜ばせているとは思うけれど、直接お客様には届かない。その距離の遠さに違和感がぬぐえなくなって。人のためになっているのか、自己満足じゃないのかと自問自答するようになったんです」

そんなとき、友人の勧めでオイルトリートメントを学び始め、さらに骨盤ケアの専門家に出会い、身体の仕組みを学ぶように。「子どもが3歳くらいの頃。
産後の骨盤の歪みに加えて抱っこなどで、体にガタがきてたんでしょうね。自分の身体を実験台に学んだら、本当に不調が改善したんです」。

学びを深めれば、不調の改善に〝遠回りをしている人〟の力になれるのでは、と考えるようになった。
自分のことは自分がいちばんわからないとはよく言ったもので、周りの人は彼女の個性に気づいていた。

10年来の仕事仲間でテーラーの口分田尚さんもその一人。
ヒロコさんの仕事ぶりから、セラピストとしてのまなざしを感じていたという。

二人の打ち合わせの場に同席したが、衣装のことを話しているようで身体のことを話していた。そのことがとても印象的だった。
ヒロコさんはアーティストの世界観だけでなく、体型やステージ上での動きを細やかに伝え、口分田さんは着る人の姿勢や体の癖を読み取りながら、美しく見える衣装を縫製で導いていく。

そんなやり取りができるのも、ヒロコさんの明確なビジョンがあってのことと口分田さん。
「スタイリストの多くは予算やスケジュールの問題から〝お任せ〟になりがち。でも彼女はいつも方向性やイメージを持っている。昔から主張はあるけど、押し付けすぎないバランス感覚があるんです」。
だからこそ彼女がセラピストも始めたと聞いたとき「向いてると思った」と口分田さんは続けた。

「僕自身、彼女と話をしていると、いつの間にか励まされている気持ちになる。もっと直接的に何かを与える人になるんじゃないかと感じてましたね」

衣装は演者にとって役に入るための装置。そして、お客様に喜んでもらえるように、美しく魅せるためのもの。
彼女はずっと、着る人の姿勢の癖や歪みを見続けてきた。
その視点を持ってきた自分に、セラピストを始めたことで気づけたのだった。

「家族や友人の身体を見ていくうちに、健康って〝楽しく生きるため〟のものなんだなって。生きているという実感がなければ、健康を保つ意味もない。私にとって、衣装の仕事も楽しく生きるために必要なこと。そう考えたら、どちらの仕事もできる範囲でやればいいと心が軽くなりました」。

迷いが晴れ、身体のことを学び始めて5年、ヒロコさんは小さな施術サロンをオープンした。人の体を見ることで得られる直接的なフィードバックの喜びは、スタイリストとしての視点にも影響を与えていた。
「〝大きな仕事をしなきゃ〟とか、〝多くの人に喜ばれなきゃ〟って思い込んでいたけれど、〝目の前のクライアントを大事にすればいい〟って思えるようになったんです」

大切なのは「整った自分で何をするか、何をしたいか」。そこに向かうための身体を、そして服をケアしているのだ。
スタイリストとセラピストを続けながら、ヒロコさんはきっともう見えてきている。なにをして生きるのか。

編集・文/竹田理紀
1975 年埼玉県・川越生まれ。編集者、コピーライター。いくつかの暮らしまわりの雑誌編集部を経て独立。mineO-sha主宰。
www.mineo-sha.com

撮影/ 山根 晋

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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