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35年前、大ヒット狙いではないCMソングが記録した25万枚 “静かな強さ”を持つ名曲

  • 2025.11.13
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※Google Geminiにて作成(イメージ)

「35年前、あなたはどんな風の中を歩いていた?」

1990年の秋、日本列島には“バブルの余韻”と“次の時代の気配”が混ざり合っていた。街のスピーカーからはアップテンポなダンスビートが流れ、誰もが少し背伸びをしていた時代。そんな中、ふと立ち止まりたくなるようなやさしい風を運んできたのが、この一曲だった。

高野寛『ベステン ダンク』(作詞・作曲:高野寛)――1990年10月3日発売

MIZUNOスキーウェアのCMソングとして制作され、前作『虹の都へ』に続くタイアップ。高野寛の透明な歌声と、浮遊感のあるサウンドが冬の空気と見事に溶け合い、静かなロングヒットを記録した。

“ありがとう”の響きに込められた、やさしさの温度

「ベステン ダンク(Besten Dank)」とはドイツ語で“心からのありがとう”を意味する。

高野が紡ぐ言葉には、派手な装飾も押しつけもない。ただ“ありがとう”という想いを、音の粒で包み込むように伝えてくる。その声は、冬の空気の冷たささえもやわらかく変えてしまうようだった。

1989年の『虹の都へ』で高野寛はすでに多くのリスナーの心をつかんでいたが、『ベステン ダンク』ではより内省的で、繊細な表現へと歩を進めた。デジタルサウンドが響く中でも、どこかアナログ的な“ぬくもり”を持った曲。それがこの作品の大きな魅力だ。

光が遠のく街に、やわらかな旋律が流れた

1990年の音楽シーンは、YMO(細野晴臣・高橋幸宏・坂本龍一)の影響を受けたアーティストたちが、“新しいポップスのかたち”を模索していた。高野寛もその流れの中で登場したひとりだった。

『ベステン ダンク』のサウンドには、テクノロジーの洗練とフォークの温度が同居している。その絶妙なバランス感覚が、高野寛の音楽を「ジャンルではなく感情で聴くもの」にしていた。どんな時代でも、彼の音は“心の温度”を失わない。

CMソングとしての記憶、そして冬の風景

MIZUNOスキーウェアのCMで流れたこの曲は、当時のテレビの中でも異彩を放っていた。派手なコピーやダンスではなく、雪原の静けさの中で響くナチュラルなメロディ。映像とともに流れると、まるで“白い世界に溶けていく声”のように感じられた。

この曲はシングルとしても堅実に支持を集め、クォーターミリオン(25万枚)を超えるセールスを記録。決して大ヒット狙いではなかったにもかかわらず、“聴く人の心に残る”タイプの名曲として評価を確立した。

時代を越えて、いまも変わらない“やさしい音”

あれから35年。音楽の再生手段も、街の風景も、すっかり変わった。けれども『ベステン ダンク』の響きは、今聴いてもまるで昨日の出来事のように心を撫でてくる。

機械的な音があふれる現代にあっても、この曲が放つ“手のぬくもり”のような感触は失われていない。高野寛の音楽は、決して声高に語らない。けれど聴く者に、「大丈夫、ここにいるよ」と静かに寄り添ってくれる。それが、彼が“時代に消費されない音楽家”として愛され続ける理由なのだ。

雪の舞う季節に、イヤフォンを通して聴くと、遠くで誰かが「ありがとう」と呟いているように感じる。その“さりげなさ”こそが、『ベステン ダンク』という作品の永遠の魅力なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。