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20年前、日本中を駆け抜けた“青春特急" 笑顔と涙を乗せた“疾走のポップソング”

  • 2025.11.5

「20年前、あの2人組の曲を覚えてる?」

2005年の秋、放課後のカフェで友達と語り合い、夜にはテレビの恋愛番組を観ながら恋の行方に胸を焦がす。そんな“やさしい時間”の中を、まっすぐに走り抜けた一曲があった。

ゆず『超特急』(作詞・作曲:岩沢厚治)――2005年11月9日発売

この曲は、フジテレビ系『恋愛観察バラエティ あいのり』の主題歌として、全国のリビングに流れた。

風を切るような疾走感のポップソング

イントロが鳴ると、心の中に新しい風が吹く。アコースティックギターを中心にした軽快なサウンドは、まるで特急車両が走り出す瞬間のようにリズミカルだ。それでいてどこか切ないメロディラインが、聴く者の胸を“きゅっ”と締めつける。「進むこと」と「離れること」が同時に存在する――そんな青春の一瞬を切り取ったような楽曲だ。

この曲を手がけたのは、ゆずの岩沢厚治。彼のソングライティングは、透明感と躍動感を両立させることに長けている。伸びやかな高音が響くサビでは、まるで空を駆け抜けるような解放感を味わえる

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2017年、20周年プロジェクトの会見に登場したゆず(C)SANKEI

“あいのり”が映し出した時代とともに

『超特急』がテーマ曲となった『あいのり』は、当時の恋愛リアリティ番組の先駆けだった。視聴者が見守る中で、旅をしながら人と出会い、別れ、恋をする――その過程に日本中が一喜一憂した。

番組で流れるこの曲は、登場人物たちの“素直な気持ち”を代弁するように響いていた。「好き」と言えなかった想い、「次の場所へ行く勇気」。そのすべてを包み込んでいたのが、このメロディだった。

まさに“恋の季節”を終える瞬間に、ちょうど心に流れ込むような歌。2000年代半ばに生まれた「素朴なリアル」を象徴していた。

岩沢厚治が描いた“日常の中のドラマ”

ゆずの楽曲は、日常のささいな風景を詩的に切り取ることに定評がある。岩沢が書く詞には、飾り気のない言葉でありながら、どこか深い情緒が潜んでいる。

『超特急』もまた、派手なメッセージを掲げるわけではなく、「今、この瞬間をどう生きるか」という問いをそっと差し出す。ふたりの声が交わるたびに“ゆずらしい温度”が生まれる。アコースティックデュオという形態だからこそ生まれる、シンプルな中の奥行き。そこに、2000年代のポップスが持っていた“真っ直ぐさ”が息づいている。

20年後に聴く、“あの頃”のエネルギー

令和の今、恋愛番組はSNSや配信であふれている。けれど『超特急』が流れていたあの頃の『あいのり』には、まだ“時間の余白”があった。メッセージを即座に送れないもどかしさ。旅の終わりを信じて見送る切なさ。そんな“間”こそが、恋や友情を本物にしていたのだろう。

だからこそ、あのイントロを聴くと、胸の奥で何かが動き出す。それは、20年前の自分が抱えていた小さな勇気。「行ってこい」と背中を押してくれた音楽の記憶だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。