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25年前、世界中が涙した“透明なハーモニー” 時代を越えて愛される“癒やしのバラード”

  • 2025.11.5

「25年前、あなたはどんな夜を過ごしていた?」

21世紀を目前にした2000年の秋。街にはまだCDショップの灯りがあって、ラジオから流れる洋楽が、少しだけ未来の匂いを運んでいた。その年の冬、世界中を静かに包み込んだ1曲があった。

Backstreet Boys『Shape Of My Heart』(作詞・作曲:Max Martin、Rami Yacoub、Lisa Miskovsky)――2000年11月1日日本発売

イントロのわずかなギターの余韻。控えめなリズムの中に流れるコーラス。すべてが穏やかなのに、どこか切ない。その音の並び方が、まるで心の奥に沈んだ感情をやさしく撫でていくようだった。

“静けさ”の中に宿るドラマ

『Shape Of My Heart』は、Backstreet Boysの4thアルバム『Black & Blue』のリードトラックとして発表された。

それまでの彼らといえば、『I Want It That Way』のような情熱的でメロディアスな楽曲が代名詞だったが、この曲ではまるで別人のように“静”を選んだ。

歌い出しからサビまでの展開は驚くほど控えめで、声も伴奏も息をひそめるように進む。だが、サビに差しかかる瞬間、音が一気に広がり、5人の透き通るようなハイトーンが重なり合うその瞬間に、世界が止まる。ただ、真摯な声の重なりが胸の奥に届く。それがこの曲の“衝撃”だった。

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2006年、日本ツアーで歌うBackstreet Boys(C)SANKEI

世界を包み込んだ“透明なハーモニー”

作曲を手がけたのは、当時すでにヒットメーカーとして名を馳せていたMax MartinとRami Yacoub。そしてスウェーデン出身の女性シンガーソングライター、Lisa Miskovsky。

北欧らしい清潔感のあるメロディと、Boysのソウルフルなハーモニーが融合し、ポップスとバラードの境界を越えた作品になった。

冷たく透明なサウンドメイクは、冬の空気を閉じ込めたように澄み切っていて、聴く人の心を落ち着かせる。英語の意味がわからなくても、音の流れだけで感情が伝わってくる不思議な力があった。

サウンドもボーカルもすべてが抑制されているのに、聴き終えたあとには確かな温もりが残る。特にブリッジ部分でのハーモニーの重なりは、涙が出るほど美しく、“人の声そのものが楽器になる”という事実を改めて感じさせてくれる。

“癒やし”としてのポップス

『Shape Of My Heart』は、世界各国でチャート上位に入り、日本でも定番バラードとして長く愛されている。ミュージックビデオでは、薄暗い劇場のような空間でメンバーが静かに歌い続ける。その演出も、曲の“内省的な美”を象徴していた。

Backstreet Boysはこの作品で、「アイドルグループ」から「アーティスト」へと確実に進化した。彼らの声は、恋や憧れの対象を超えて、“寄り添う音”として人々の心に残っていく。

25年経っても消えない、あの“やさしい瞬間”

あの頃、CDプレイヤーの再生ボタンを押してから流れる最初の一音。冬の夜の静けさの中で、この曲がゆっくりと広がる瞬間を覚えている人も多いはずだ。

スマートフォンのイヤホン越しに聴く今も、その美しさは少しも色あせていない。“派手さのない感動”こそ、時代を超える。『Shape Of My Heart』が愛され続ける理由は、まさにそこにあるのだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。