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35年前、4度も再発売された“不変なのに新しい”クリスマスソング 何度も姿を変える“再生の名曲”

  • 2025.10.28

「35年前の冬、どんな街の灯を見ていましたか?」

まだバブルの残光が街を覆っていた1990年の冬。イルミネーションが商業施設を飾り、CDから流れるのは新しい時代のポップス。そんな中で、心の奥を静かに温めるように鳴った1曲がある。

稲垣潤一『メリークリスマスが言えない』(作詞:秋元康・作曲:松本俊明)――1990年11月1日発売

冷たく澄んだ冬の空気とともに、何度も繰り返し発売されるほど、季節そのものを象徴する名曲となっていった。

静かな夜に流れた“本当の優しさ”

1980年代の終わりから90年代初頭、稲垣潤一は“都会のロマンチスト”として、多くのラブソングを送り出してきた。『ドラマティック・レイン』(作詞:秋元康・作曲:筒美京平)などの名曲で知られる彼にとって、この『メリークリスマスが言えない』は、その流れの中にありながらも一線を画している。

秋元康の詞は、きらめく夜の情景を描きながらも、そこに滲むのは「もう戻らない恋」を見つめる静かな痛みだ。かつての約束や笑顔を思い出しながらも、言葉にはできない距離が広がっていく。

松本俊明がつけたメロディは、そんな切なさを包み込むようにあたたかい。サビでは、稲垣潤一の澄んだ声が冬の夜空に溶けるように伸びていき、哀しみを優しさへと変えていく。

クリスマスソングでありながら、きらびやかではなく“静かに胸を焦がす”——そんな余韻を持つ一曲である。

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稲垣潤一-2010年撮影(C)SANKEI

積み重ねる時間とともに“更新”される名曲

この曲の特筆すべき点は、何度も再発売されたことだ。

翌1991年にはジャケットを新たにして再リリース、さらに1993年には『クリスマスキャロルの頃には』と両A面として再登場した。1994年、2000年にも形を変えてリリースされ、計4度、まるで毎年、少しずつ違う冬の景色を映し出すように姿を変えてきた。

それでも、どの時代に聴いても古びない。「変わらないのに、新しい」――その矛盾が、この曲の魔法だ。

音の構成はシンプルだが、旋律の温かさと稲垣の穏やかな歌声が、どの年の冬にも寄り添ってくれる。時が経っても、聴く人の思い出や状況によって感じ方が変わる“再生する名曲”なのだ。

稲垣潤一の声が描く「時間の透明さ」

稲垣の歌声には、派手な感情表現よりも、静かな誠実さがある。まるで遠くから語りかけるように、聴く人それぞれの心に“自分だけの物語”を残していく。『メリークリスマスが言えない』では、特にその透明感が際立っている。息づかいが雪のように淡く、言葉のひとつひとつに確かな温度が宿っている。

これは単なる季節ソングではない。誰かを想う気持ちが時間を超えて残る――そんな“記憶の歌”として、この作品は特別な場所に存在している。

永遠に降り積もる音の雪

この曲が毎年冬になると蘇るのは、季節ではなく“人の心”に結びついているから。街の灯が変わっても、駅前の待ち合わせがスマホでのやりとりになっても、誰かを想う時間の切なさは変わらない。稲垣の声はその変わらない部分を優しく包み込み、聴くたびに“今年の冬”を新しい思い出として塗り替えてくれる。

今では『クリスマスキャロルの頃には』が代名詞的に語られる稲垣潤一だが、その少し前に発表された『メリークリスマスが言えない』こそが、彼におけるクリスマスソングの原点と言ってもいいかもしれない。シンプルなメロディ、控えめな演奏、言葉少なな感情。そのすべてが、聴くたびに心に雪のように降り積もっていく。

そして今も、誰かがこの曲を再生し、遠い冬の記憶を思い出す。それは、90年のあの冬と、今の冬をつなぐ小さな奇跡なのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。