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30年前、50万枚超を記録した“幸福だけど皮肉な”シニカルポップ 情熱と哀愁の“異国風ソング”

  • 2025.10.28

「30年前の秋、あなたはどんな風景を見ていた?」

街の木々が黄金色に染まり、少し冷たい風が頬をなでる。時代は確実に次のページをめくろうとしていた1995年。その空気の中で、ひときわ鮮やかに響いたのがこの曲だった。

松任谷由実『輪舞曲(ロンド)』(作詞・作曲:松任谷由実)――1995年11月13日発売

ユーミンにとって27枚目のシングルであり、日本テレビ系ドラマ『たたかうお嫁さま』の主題歌として制作された本作は、50万枚を超えるセールスを記録した。軽やかでありながら深い余韻を残す楽曲だ。

風に舞うように、始まるイントロ

この曲を聴くと、まず印象に残るのがスペイン風のギターイントロだ。弦が描く旋律は情熱的でありながら、どこか透明感を帯びている。まるで、秋の午後に舞う木の葉のようにリズムが軽やかで、聴く者の心を一瞬で異国へと連れ出す。

タイトルの“輪舞曲(ロンド)の通り、メロディや言葉が円を描くようにめぐり、聴き手を心地よいループへと導いていく。ユーミンはこの反復の中に、“変わらないこと”と“変わっていくこと”の両方を織り込んでいるように感じられる。

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1998年、松任谷由実 (C)SANKEI

時代を包み込む“ユーミン節”の成熟

1995年のユーミンは、デビューから20年以上を経て、すでにJ-POPの象徴的存在だった。『真夏の夜の夢』『春よ、来い』といった名曲で、幅広い層にその存在を知らしめた後に発表された『輪舞曲(ロンド)』は、そうした華やかさをひと呼吸置いたような“静かな挑戦”でもあったように思う。

歌の構成には、フォルクローレ(南米民族音楽)のリズムが柔らかく取り入れられ、打楽器とギターが繊細に溶け合う。ラテンの情熱と日本的な哀愁――その融合が、まるで異国のダンスを眺めているような浮遊感を生んでいる。

一方で、松任谷正隆によるアレンジは決して派手ではなく、ボーカルを包み込むように設計されている。音の隙間に漂う“余白”が、ユーミンの声の透明さをいっそう際立たせているのだ。

軽やかさの中に潜むシニカルな眼差し

一聴すると、この曲はウェディングソングのような幸福感に包まれている。しかし、よく耳を傾けるとそこに潜むのは、“永遠の約束を信じきれない人間の現実”でもある。

明るく踊るようなリズムの裏で、ユーミンらしい観察者の視線がひっそりと息づいている。

これは単なる恋の歌でも、祝福の歌でもない。人が“輪”の中で繰り返す愛や期待、そして裏切りまでも受け入れる――そんな“人生のロンド”が描かれているようだ。

まるで、幸福と皮肉を紙一重で並べるユーミンらしい手法で、リスナーに“甘すぎない余韻”を残す

輪のように、めぐり続ける歌

『輪舞曲(ロンド)』は、当時の松任谷由実の作品群の中では突出したヒットではないかもしれない。だが、そのメロディとサウンドの完成度、そして“成熟した軽やかさ”は、彼女のキャリアの中でも特別な位置を占めている。

時代の変化を見据えながらも、どんな瞬間も「今、この瞬間を美しく描く」ことに徹してきたユーミン。この曲には、その信念が静かに息づいている。季節が巡るように、人生もまた繰り返す。ユーミンの歌は、そのループの中に光を灯し続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。