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コーヒー1杯で5時間 席を占有する『長居客』…→店は“強制退店”させられる?法的にどこまで許されるのか【法律のプロが解説】

  • 2025.10.26
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

カフェやファミリーレストランで、一杯のドリンクだけで長時間にわたり席を占有する、いわゆる「長居客」。特にリモートワークの普及に伴い、こうした光景は珍しくなくなりました。しかし、店側にとっては死活問題です。

混雑時に席が埋まり、他のお客様を案内できない状況で、店は長居客に対してどこまで強く「退店」を求めることができるのでしょうか。「強制的に店から出す」ことは法的に許されるのか。

今回は、飲食店と客の間に結ばれる「施設利用契約」の観点から、店側が持つ権利とその限界について、ベリーベスト法律事務所 齊田貴士 弁護士に詳しく解説していただきます。

カフェの長居…「強制退店」は難しい?

まず結論から言うと、店側が特に事前のルール提示なしに、長時間滞在している客を一方的に「強制退店」させることは、法的に難しいと考えられます。

飲食店で商品を注文する行為は、単なる飲食物の売買契約だけでなく、一定時間その店の設備(席や空間)を利用する権利を含むと解釈されます。そのため、一度注文したお客様には、一定時間滞在する権利が法的に発生していると言えます。

つまり、倫理的・道徳的な問題は別として、法律論だけで言えば、客側にも「店内にいる権利」が一定程度認められているのです。

店が「退店」を要求できる法的根拠は?

では、店側はいつ、どのような根拠に基づいて退店を求めることができるのでしょうか。鍵となるのは**「事前のルール明示」**です。

店側が退店を求めるための最も有効な法的根拠は、あらかじめ施設利用に関するルールを客に示し、合意を得ておくことです。

具体的には、

  • 「混雑時は2時間制とさせていただきます」といった内容の看板や貼り紙を店内に掲示する。
  • メニューに滞在時間に関するルールを明記する。

といった対策が考えられます。これらのルールを事前に明示しておくことで、それが客との間の契約内容となります。そのルールに定められた時間を超えた場合、店側は「契約違反」を根拠に、正当な権利として退店を求めることができるのです。

逆に、こうしたルールが一切ない場合、どの程度の長居が「社会通念上許される範囲」を超えるのかという、非常に曖昧な問題になってしまい、店側が強い態度に出るのは難しくなります。

退店要求を「無視」し続けると犯罪になる可能性も

もし、店側がルールに基づいて(あるいはルールがなくても混雑時に丁寧に)退店をお願いしたにもかかわらず、客が「まだいる権利がある」などと主張して居座り続けた場合、状況は大きく変わります。

正当な理由なく店の退店要求を無視し続けた場合、その行為は民事上の契約違反にとどまらず、刑法上の犯罪が成立する可能性があります

  • 不退去罪(刑法130条) 店側の退去要求を受けたにもかかわらず、正当な理由なくその場から立ち退かない場合に成立します。一度は正当な権利で入店していても、退店を求められた後は、居続ける権利が失われるのです。
  • 威力業務妨害罪(刑法234条) 大声を出して居座ったり、他の客の利用を妨げたりするなど、店の正常な営業を妨害したと判断されれば、より重いこの罪に問われる可能性もあります。

ルールの明確化が、店と客の双方を守る

一杯のコーヒーで長時間滞在する行為は、法律だけで白黒つけられる単純な問題ではありません。しかし、法的な観点から見れば、その境界線は「店側がルールを事前に示していたか」そして「客が店の正当な要求に応じたか」という点にあります。

店側は、快適な環境を維持し、ビジネスを守るために、滞在時間に関するルールを事前に明確に提示しておくことが重要です。一方で、客側も、飲食店は公共の図書館ではないことを理解し、混雑時には後から来る人のために席を譲る配慮が求められます。

お互いの立場を尊重し、明確なルールの下でサービスを提供・利用することが、無用なトラブルを避ける最善の方法と言えるでしょう。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

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神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。