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ベビーカーで満員電車に乗車 → 客「邪魔だ」と暴言を浴びせてきて…車内トラブルの“たった一つの対処法”とは【法律のプロが解説】

  • 2025.10.27
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

子育て世代が公共交通機関を利用する際、しばしば直面するのがベビーカーをめぐるトラブルです。特に満員電車では「邪魔だ」「こんな時間に乗るな」といった心ない言葉を浴びせられ、深く傷つく親は少なくありません。

こうした他人の尊厳を傷つける言動は、単なるマナー違反で済まされるのでしょうか。それとも、法律上の「侮辱」として、相手の責任を問うことはできるのでしょうか。

今回は、駅や電車内での暴言トラブルについて、侮辱罪が成立する条件と、被害に遭った際の現実的な対処法をじょうばん法律事務所 鬼沢健士 弁護士に聞きました。

「邪魔だ」「どけ」という暴言だけで侮辱罪は成立する?

結論から言うと、電車内で「邪魔だ」「どけ」などと罵声を浴びせられただけでは、侮辱罪の成立は難しいと考えられます。

侮辱罪は、「事実を摘示せずに公然と人を侮辱した場合」に成立します。名誉毀損罪との違いは、事実の摘示の有無です。

『邪魔だ』や『どけ』といった言葉は、相手の人格や社会的評価を直接的に貶める『侮辱』というよりは、乱暴な口調での命令や自身の感情の表明と解釈される可能性が高いです。そのため、これらの言葉単体で侮辱罪を成立させるのは困難でしょう。

侮辱罪と似た犯罪に名誉毀損罪がありますが、こちらは「彼は殺人の前科があっておそろしいやつだ。」や「振り込め詐欺グループの1人だ。」のように、真実か否かにかかわらず具体的な事実を挙げて相手の社会的評価を下げる行為を指すため、今回のケースにはあたりません。 

ベビーカーを蹴る・押す行為は「暴行罪」にあたる可能性

言葉による侮辱罪の成立が難しい一方で、相手が物理的な行動に出た場合は話が大きく変わります。

もしベビーカーを蹴られたり、乱暴に押されたりした場合は、暴行罪(刑法208条)が成立する可能性が十分にあります。

暴行罪は、必ずしも相手の身体に直接触れる必要はありません。人の身体に向けられた不法な有形力の行使であれば成立します。

ベビーカーを蹴る行為は、中に乗っている子ども、ひいてはその親の身体に向けられた攻撃とみなされ、暴行罪に問われる可能性が高いです。

ただし、満員電車内で通路を確保するためにやむを得ずベビーカーが少し押されてしまった、といった社会通念上相当と認められる範囲の接触であれば、事件化するのは難しい側面もあります。悪意を持った、乱暴な行為であったかどうかが焦点となります。 

もし被害に遭ってしまったら?最優先すべきは「子どもの安全」

では、実際に電車内で心ない暴言や危険な行為の被害に遭ってしまった場合、どのように対応するのが最善なのでしょうか。

鬼沢弁護士は、「お子さんの安全最優先ということで、黙って移動するのが無難かつ最善」と強調します。

相手に言い返したり、その場で反論したりすることで、相手がさらに逆上し、状況が悪化する危険性があります。暴言を言われただけであれば、可能であればその場を離れ、車両を移動するのが最も無難で賢明な判断と言えるでしょう。

もちろん、ベビーカーを蹴られるなど身の危険を感じるような明らかな攻撃を受けた場合は、ためらう必要はありません。大声で助けを求め、周囲の乗客や駅員に協力を仰ぎ、警察や鉄道会社へ速やかに通報しましょう。 

まずは安全確保を。悪質な行為には然るべき対処を

電車内での「邪魔だ」「どけ」といった暴言は、言われた側の心を深く傷つけますが、それだけで法的に「侮辱罪」として相手の責任を問うことは、残念ながら難しいのが現実です。

しかし、ベビーカーを蹴るなどの物理的な攻撃は、子どもの安全を脅かす許しがたい「暴行」にあたる可能性があります。もし被害に遭ってしまったら、感情的に反論することはぐっとこらえ、まずは子どもの安全を第一にその場を離れるのが最善策です。

そして、身に危険が及んだ際には、迷わず周囲に助けを求め、警察に通報するという冷静な判断が求められます。子育て世代が安心して公共交通機関を利用できる社会の実現には、周囲の理解と協力が不可欠です。


監修者名:鬼沢健士 弁護士

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茨城県取手市でじょうばん法律事務所所属。
できる限り着手金無料で、労働問題(不当解雇、未払残業代等)や詐欺被害救済に積極的に取り組んでいる。