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40年前、映画&CM発の“静かだけど情熱的な”ロマンティックソング 反骨サウンドを封印した新境地の一曲

  • 2025.10.23

「40年前の夏、街に吹く風の匂いを覚えてる?」

1985年夏。ガラス越しに差す陽射しの角度が少し変わるだけで、人の心もどこか切なく揺れていた。そんな季節に、透明で熱を秘めた一曲が静かに放たれる。

森山達也『Love, かくし色』(作詞:麻生圭子・作曲:森山達也)――1985年7月25日発売。

THE MODSのボーカルとして知られる森山達也がソロとして送り出したこのシングルは、当時の音楽シーンの中で異彩を放っていた。激しいステージングと反骨的なバンドサウンドで知られる彼が、あえて“静けさ”をまとった楽曲を選んだこと。それは、音楽家としてのもう一つの顔を示す大胆な一歩だった。

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※Google Geminiにて作成(イメージ)

静かに灯った、ロッカーの新しい輪郭

1985年、THE MODSはすでに日本ロック界で確固たる地位を築いていた。だが、その中心にいた森山達也は、叫ぶようなステージの裏で“もう一つの表現”を生み出していた。

『Love, かくし色』は、彼の内面が自然と滲み出たような作品だった。

プロデューサーには一風堂の土屋昌巳を迎え、編曲も土屋自身が担当。土屋のサウンドメイクは、森山の持つ荒削りなロック魂に“透明な艶”を与えている。ギターの余韻、シンセの繊細な光、リズムの軽やかな跳ね、そのどれもが、都会の夜に漂う孤独と希望を描き出していた。勢いではなく、余白で語る音楽――それが、この曲の根底に流れる美学だったように思う。

秋の街角で、香るように流れたメロディ

この曲は、カネボウ化粧品の1985年秋のイメージ・ソングとしてのタイアップになった。テレビCMから流れる柔らかなイントロは、季節の移ろいとともに多くの人の耳に残った。華やかな広告の世界と、森山のストイックな世界観。その交わりは、一見不思議に見えながらも絶妙な調和を生み出していた。

さらに、映画『春の鐘』の主題歌にも起用されたことで、映像作品との親和性も高まった。スクリーンの光とともに響くこのメロディは、言葉にできない想いを観客の胸に染み込ませていった。

彼がステージで見せる荒々しさとは異なる、“静止の中の情熱”がそこにはあったのだ。

森山達也という表現者の深み

作詞を手がけた麻生圭子は、当時から都会的で繊細な情景を描く作詞家として注目されていた。その詩の世界に、森山が自ら作曲したメロディが寄り添うことで、ロックでもポップでもない“もうひとつの日本的エレガンス”が生まれた。

THE MODS時代の森山を知るリスナーにとって、この曲は“裏面”のように感じられたかもしれない。しかし実際は、彼の根底にある感情の純度を正直に表した作品だと思う。激しさと静けさ、情熱と理性――その両極を往来することこそが、森山達也というアーティストの本質なのだ。

今も残る、あの頃の透明な余韻

40年経った今、改めて聴き返すと、この曲の魅力は決して派手なメロディラインや強烈なサビにあるわけではない。むしろ、心の奥をかすめていくような“温度の曖昧さ”が、時を超えて私たちを惹きつける。

土屋昌巳の手による音像は、当時の流行であったニューロマンティックやシティポップの質感を内包しつつも、どこか“日本の詩情”を漂わせていた。

それは、秋の夕暮れに立ち止まり、ふと街のショーウィンドウに映る自分を見つめる瞬間のような、静かなロマンティシズム。

“Love”と“かくし色”――タイトルが象徴するのは、誰の心にもある“見せない想い”なのかもしれない。声を張り上げずとも届くもの。抑えた表現の中にこそ、真の情熱が宿る。そんな感覚を、この曲は確かに私たちに教えてくれる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。