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28年前、売上40万枚を超えた“激しく静かな国民的ソング” 時代の波に抗った"泥臭い骨太ロックバラード”

  • 2025.10.23

「28年前の夜空、どんな月が浮かんでいたか覚えてる?」

1997年の夏。街はまだCDショップの灯りに包まれ、人々はお気に入りの曲を繰り返し聴いていた。夜風が少し湿り気を帯び、遠くの空にはまるい月。あの頃、静かな熱を持って日本中に流れていたのが、この曲だった。

エレファントカシマシ『今宵の月のように』(作詞・作曲:宮本浩次)――1997年7月30日発売

フジテレビ系ドラマ『月の輝く夜だから』の主題歌として制作された本作は、40万枚以上を売り上げ、エレファントカシマシにとって初めて“国民的ヒット”と呼ばれる瞬間をもたらした。

月明かりが導いた、新たなエレカシ

泥臭くも誠実なロックを貫いてきた彼らは、当時まだ「知る人ぞ知る」存在だった。テレビの中の華やかな音楽番組で見ることは少なく、街の片隅で鳴らす“魂の音楽”という印象が強かった。そんなバンドが、ゴールデンのドラマ主題歌を任される――それは少し意外にも思えたが、結果は見事だった。

『今宵の月のように』は、エレカシの持つ熱と誠実さをそのままに、どこか柔らかく包み込むような温度を纏っている。強さの中に優しさがある。激しさの先に、静けさがある。 その絶妙なバランスが、当時のリスナーの心に深く響いたのだ。

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1997年、ライブ『明日に向かって走れ“秋”』で歌うエレファントカシマシのボーカル・宮本浩次(C)SANKEI

“吠える宮本”から、“語る宮本”へ

作詞・作曲を手がけた宮本浩次は、情熱をそのまま叫ぶタイプのシンガーだった。しかし『今宵の月のように』では、言葉を噛みしめるように語り、抑えた情感で聴く者の胸に沁みていく。

サウンドも荒々しいロックから一歩引き、穏やかで温かいアレンジが施されている。バンドとしての骨太さを残しつつ、“夜空に響くロックバラード”を届けてくれた。

この静けさの中に潜む力こそ、エレファントカシマシが90年代後半に再評価されるきっかけになったとも言えるだろう。

ヒットを越えて、記憶になった曲

1997年の日本。華やかでデジタルなサウンドが主流を占めていた。そんな中で『今宵の月のように』のようなアナログで、人間味のある曲は、かえって際立って聴こえた。

『今宵の月のように』は、リリースから四半世紀を過ぎた今も、さまざまな形で生き続けている。カバーやCMソングとして度々耳にするほか、2018年にはメンバーのゆかりの地・東京都北区赤羽のJR赤羽駅6番線で発車メロディとして採用された

毎日誰かを送り出すその旋律は、まるで“日常の中の小さな祈り”のようでもある。

エレファントカシマシはその後も数々の名曲を生み出し、宮本浩次はソロとしても活躍を続ける。しかし、彼らの原点を大衆が共有した瞬間――それは、間違いなくこの『今宵の月のように』だった。

それでも夜は、優しく照らす

時代が変わり、音楽の聴き方も変わった。けれど、夜の静けさに耳を澄ませると、この曲がふと思い出される。

誰かの心が折れそうな夜、疲れた帰り道。ふと聴こえてくるこのメロディは、28年前と変わらず、静かに背中を押してくれるのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。