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25年前、CMでお茶の間に広がった“切ないけど前向きな”解放ポップ 25万枚超えヒットの“再出発の一曲”

  • 2025.10.25

「25年前の七夕、どんな願いをかけたか覚えてる?」

2000年の夏、夜空にまたたく星を見上げながら、心のどこかで“何かが変わる予感”を抱いていた人は少なくなかった。インターネットが身近になり、時代のスピードが加速していく中で、心の奥に残る“願い”だけはまだ、アナログのまま確かにそこにあった。

そんな七夕の夜、MISIAが届けたのは、誰もが胸の奥で信じたかった“奇跡”を音にした一曲だった。

MISIA『Escape』(作詞:MISIA・作曲:MISIA、SAKOSHIN)――2000年7月7日発売

彼女の誕生日に合わせてリリースされたこの曲は、ロマンティックでありながらも、自由へと駆け抜けるような爽快さを秘めたヒップホップチューン。ケンウッド「Avino」のCMソングとして街に流れ、真夏の風に乗って多くの人の心を解き放っていった。

星に願いを託した、夏のはじまり

2000年第1弾シングルとしてリリースされた『Escape』。SAKOSHINとの共作によるトラックは、ヒップホップのループを軸にしながらも、どこか浮遊感を帯びたサウンドに仕上がっている。その上を、MISIAの伸びやかなヴォーカルが縦横無尽に駆け抜ける。まるで夜空を翔ける流れ星のように。彼女が持つ印象的なホイッスルボイスも聴くことができる。

『Escape』というタイトルには、“逃げ出す”という意味がある。だが、ここで描かれているのは単なる逃避ではない。リズムに身を委ねながら、束縛や迷いから解き放たれ、“本当の自分を取り戻していく”感覚に近い。

SAKOSHINによるグルーヴィーなベースとビートが、都会の夜の疾走感を描き出す一方で、MISIAの声はどこか祈るように響く。強く進もうとする意志と、儚い希望が同時に息づいているのだ。その対比が、聴く者の心に不思議な“前向きな切なさ”を残していく。

MISIA自身の作詞によるフレーズには、“奇跡を信じる力”が静かに流れている。彼女の言葉は決して押しつけがましくなく、聴く人それぞれが自分の願いを重ねられる余白を持っている。まさに“七夕に生まれた曲”として、これ以上ないほどの象徴性を放っていた。

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MISIA-2004年撮影(C)SANKEI

七夕リリースが生んだ、特別な物語

この曲がリリースされたのは、MISIAの誕生日でもある7月7日。ファンの間では、毎年この日を特別な“記念日”として祝う人も多い。そのリリース日が象徴するように、『Escape』はMISIAにとっても“再出発”の曲だった。

セールス面でも、CD売り上げでクォーターミリオン(25万枚)を記録。華美な宣伝に頼らずとも、純粋に音楽の力で届いた数値だった。それは、2000年という節目の年において、音楽がまだ“想い”で動いていた時代の証でもある。

奇跡を信じたあの夏の記憶

七夕の夜に生まれた『Escape』は、ただのポップソングではなく、“願いと前進”を両立させた稀有な楽曲だった。MISIAの歌声が描くのは、どこまでも自由で、どこまでも優しい世界。

たとえ今、時代がデジタルに塗り替えられても、この曲が放つ“人間らしさ”は色あせない。誰もが一度は「奇跡」を信じたい夜がある。そんな想いを包み込むように、『Escape』は今も静かに輝き続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。