1. トップ
  2. 「NHKだからこそ」「天才的」声だけ出演の“実力派俳優”や動物たちの仕草で描かれる“独特な空気感”【ドラマ10】

「NHKだからこそ」「天才的」声だけ出演の“実力派俳優”や動物たちの仕草で描かれる“独特な空気感”【ドラマ10】

  • 2025.10.17

柴犬専門誌『シバONE』。この一風変わった雑誌の編集部を舞台にしたドラマ『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』は、笑って泣ける、そしてじんわり心を温めてくれる物語だ。大東駿介が演じる編集長・相楽俊一と、飯豊まりえが演じる編集者・石森玲花。立場も性格も正反対のふたりを中心に、個性的な編集部員たちが“犬愛”を原動力に奮闘していく。第3話までを観ると、このドラマが単なる犬好きのためのドラマではなく、“人が人に戻っていく物語”であることが見えてくる。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

編集部の崖っぷち奮闘と、やりたいことをやろう!の合言葉

undefined
ドラマ10『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』10月14日放送(C)NHK

創刊後まもなくにして、早くも『シバONE』廃刊の危機。発行部数30万部を突破できなければ、雑誌は存続できない。そんな絶望的な条件を突きつけられた編集部。

それでも「どうせ最後なら、思いきり好きなことをやろう」と、それぞれが“犬バカ魂”を爆発させていく3話の展開は、熱い。

カメラマンの三田(こがけん)が愛犬・ボムを主役にした“デート企画”を提案し、ベテラン編集者の清家(片桐はいり)は犬バカ診断テストをつくり、はたまた柴犬たちの演歌コスプレなんていう企画も進行。彼らの姿には、雑誌づくりという仕事の“熱”と“笑い”が詰まっている。

机の上で正論を並べるよりも、犬の魅力を伝えたい、犬と人の関係をちゃんと伝えたいという思いが、彼らの行動を支えているのだ。

そんななか、雑誌の入稿直前に“4ページ分の穴”が開くという、編集者にとって最悪の事態が起こってしまう。普通ならパニックに陥るところ。しかし相楽はギリギリのところで、新企画“シバ川柳”を考案する。彼にとって『シバONE』は、ただの雑誌ではない。犬たちを通して、人間を優しく見つめ直す場所なのかもしれない。

犬が教えてくれる、寄り添うということ

undefined
ドラマ10『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』10月14日放送(C)NHK

このドラマのもうひとつの主役は、もちろん柴犬たちだ。

相楽の愛犬・福ちゃん(声:柄本時生)は、まるで心のナレーターのように登場人物たちを導く。人間たちの喧騒の合間に、福ちゃんが小首をかしげたり、静かに見つめたりする。その何気ない仕草が、登場人物だけではなく、視聴者全員の感情を和らげるのだ。SNS上でも「ほんとに可愛すぎる」「天才的な作品」「NHKだからこその独特な空気感」と話題である。

犬の表情がこんなにも“語る”ことがあるのか、と驚かされる。目線の先、尻尾の動き、ため息のような鼻息。そのすべてが演技のようでいて、なんとも自然体。言葉ではない優しさが、画面の奥から伝わってくる。

また、動物を扱うメディアとしての倫理的視点を、きちんと作品内で掬い上げている点も誠実だ。「犬をおもちゃにするなんて」といった批判を読者の声として組み込むことで、動物と人の距離感をどう保つのが適切か、その問いを作品自体が内省することに成功している。

“犬バカ”という言葉は、本作では決して揶揄ではない。犬に対して真っ直ぐに、損得抜きで向き合える人たち。それこそが“犬バカ”の本質だ。彼らは犬を通して、いつのまにか人間同士の関係を修復していく。そして、犬たちもまた、そんな人間たちをじっと見守っている。

犬と人がつくる、小さな奇跡

undefined
ドラマ10『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』10月7日放送(C)NHK

『シバONE』廃刊の危機を前に、編集長が打ち出した渾身の企画『シバ川柳』は、奇跡のような温かさで誌面を埋めた。30万部の壁は越えられなかったものの、社長(勝村政信)の鶴の一声「君(相楽編集長)はともかく、福ちゃんは必要だから続けてくれ」と雑誌は存続を許される。その決定には、“理屈じゃなく心で動く”大人たちの清々しさがあった。

犬が好きという気持ちは、結局“誰かを信じる勇気”にも近い。犬は見返りを求めず、ただまっすぐに人を信じてくれる。そんな存在を毎日見ているうちに、人間もまた“信じる力”を取り戻していくのだろう。

『シバのおきて』は、犬を中心に据えながらも、決して犬だけの物語ではない。編集部という小さな枠組みのなかで、人が自分を見失い、また取り戻していく。その過程を、柴犬たちは無言のまなざしで見届けている。

働くことに疲れた夜。人との関係に少し息が詰まった朝。このドラマを観ると、「ああ、人ってまだやり直せるんだ」と思える。

犬の優しさは、言葉より静かで、でも確かに届く。だからこそ、この作品は観る者の心に、柔らかな“余白”を残してくれる。“犬バカ”とは、きっと、愛を信じる力のことだ。


ドラマ10『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』毎週火曜よる10時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧・Twitter):@yuu_uu_