1. トップ
  2. TBSが発掘した次世代の脚本家たちの協力執筆作品 “初回放送”からママ世代の共感を呼ぶ“異色”のクライムサスペンス 

TBSが発掘した次世代の脚本家たちの協力執筆作品 “初回放送”からママ世代の共感を呼ぶ“異色”のクライムサスペンス 

  • 2025.10.17
undefined
金曜ドラマ『フェイクマミー』第1話(C)TBS

10月10日に放送がはじまった連続ドラマ『フェイクマミー』は、二人の女性が子供の将来のために母親の成りすまし契約を結ぶファミリークライム・エンターテインメントだ。

東京大学を卒業して大企業で働いていた花村薫(波瑠)はある理由で会社を辞めて転職活動をおこなっていた。ある日、面接を受けたが不採用だったベンチャー企業の社長・日高茉海恵(川栄李奈)に声を掛けられ、薫は6歳の娘・いろは(池村碧彩)の家庭教師を担当することになる。
いろはは小学校受験のために勉強していたが、彼女が志望する柳和学園小学校は規律と伝統を重んじる名門私立で、高校中退で元ヤンキーの茉海恵にはハードルが高かった。
そのため彼女は自分の代わりに母親として面接を受けてほしいと薫に頼むのだが、それは犯罪だからできないと薫は断る。

その後、薫は、茉海恵の面接の特訓も担当することになるのだが、ある日、彼女が一般人に激怒している姿を盗撮した動画がネットで炎上。彼女の会社は上場を控えた大事な時期で、非公表にしていた娘がお受験をすると知られたら炎上が更に広がるのではないかと世間の反応を恐れた茉海恵は、受験を諦めようとする。 しかし、いろはの将来を思った薫は、一度は断った茉海恵の代わりに小学校受験の面接に参加することを引き受け、合格後もいろはの母親として行動するフェイクマミー(母親の成りすまし)契約を引き受ける。

本作は犯罪を題材にしたクライムサスペンスだが、殺人や強盗といった誰の目にも理解できる凶悪犯罪ではなく、私立小学校受験における“母親のなりすまし”を扱っているのが独創的だ。
受験生に別人が成りすます“替え玉受験”は定期的に話題になるが、母親の方が入れ替わるというのはあまり聞かない。そのため、どういう罪なのかピンと来ないところがあったが、冒頭の受験会場に向かう場面で「成りすましで捕まれば有印私文書偽造罪で最長5年の拘禁刑、これに偽計業務妨害と建造物侵入が加わると……」という薫のモノローグが流れ、バレたら人生が終わる重い罪になることが説明される。

正反対の立場の女性が抱える日本社会の生きづらさ

その後、薫が会社を辞めた理由が語られるのだが、その理由が衝撃的だった。
薫は優秀な社員で、企業内における多様性の推進に尽力したことが認められて表彰される優秀な社員だった。しかし、昇進したのは子育てをしながら働く時短勤務の同僚の女性社員であり、彼女は補佐を任された。 “働く母親を支える制度改革”を急務としている会社は、その象徴として薫の同僚を昇進させたのだ。
それが原因で薫は会社を辞めたのだが、「独身で子供のいない女性社員は多様性に含まれないということでしょうか?」と薫が異議申し立てをする場面はショッキングで、一見エリートの勝ち組に見えるが未婚で子供がいないことを理由に日本社会で冷遇されている女性の物語を、本作は描こうとしているのかと感じた。
一方、茉海恵は高校中退の元ヤンキーだったが、自分自身が広告塔となることでベンチャー企業の女性社長として活躍し、シングルマザーとして娘を必死で育ててきた。しかし、子供の私立受験を前に、学歴がないことの限界にぶつかっていた。

東大卒で優秀だが、独身で子供がいないことが原因で昇進できずに会社を辞めた薫と、シングルマザーの女社長でありながら、勉強ができないことで壁にぶつかっている茉海恵は正反対の立場だが、女性として社会の壁にぶつかっているという意味では似ているのかもしれない。そんな二人がいろはの将来のために犯罪を犯すのが、本作の面白さであり哀しさである。

ライターズルームによって練られた隙のない脚本

undefined
金曜ドラマ『フェイクマミー』第1話(C)TBS

本作は、次世代を担う脚本家の発掘・育成を目的としたプロジェクト『TBS NEXT WRITERS CHALLENGE』の第1回で大賞を受賞した園村三の脚本『フェイク・マミー』を連続ドラマ化した作品である。園村の他にもドラマ原案協力・脚本協力として麻林由の名前があるが、彼女も『TBS NEXT WRITERS CHALLENGE』の第1回でチャレンジ賞を受賞している新人脚本家だ。

この賞がユニークなのは、賞を受賞した脚本家がTBSが設立したライターズルームに参加する資格が得られること。

ライターズルームとは、複数の脚本家がチームを組んで執筆する手法で、アメリカの海外ドラマで用いられてきた組織的な執筆方法である。一人の脚本家による単独執筆が多かった日本のテレビドラマでは馴染みの薄い手法だったが、近年はNHKが脚本開発チーム『WDRプロジェクト』で複数の脚本家を集め、そこで生まれた企画をドラマ化した『3000万』が高い評価を獲得しており、作劇手法として定着しつつある。
『フェイクマミー』の脚本が完成度の高い隙のない作りとなっているのは、園村だけでなく、もう一人の脚本家としてクレジットされている木村涼子や、脚本協力の麻林由の意見も取り入れて、時間をかけて集団で脚本を練ったからではないかと思う。

その結果、“母親の成りすまし”という、ともすれば荒唐無稽になりかねない犯罪の描写に説得力を与えると同時に、経済的に余裕がある薫と茉海恵が、あえて犯罪を実行する決意をした動機としての“社会の理不尽さ”を描くことに成功している。

最後に、『フェイクマミー』を観ていて思い出すのは、1997年にアメリカで劇場公開されたアンドリュー・ニコル監督のSF映画『ガタカ』だ。

本作は遺伝子操作によって生まれた“適合者”だけが優遇される近未来を舞台に、自然出産によって生まれた“不適合者”の青年が、“適合者”だが事故で半身不随となった青年から提供された検査用の血液や尿を用いて遺伝子を偽装することで、宇宙飛行士を目指す物語だった。
『フェイクマミー』では、娘のいろはが宇宙飛行士の女性に憧れており、彼女と同じ小学校を目指している。そのために母親の入れ替わりという偽装を行うのだが、学歴と結婚&出産が女性のキャリアアップを大きく左右する現代の日本社会の息苦しさは、『ガタカ』のようなSFの世界に近づいているのかもしれない。

クライムサスペンスゆえに単純なハッピーエンドにはならないと思うが、薫と茉海恵、そしていろはの三人家族がどこに着地するのか、最終話まで見守りたい。


TBS系 金曜ドラマ『フェイクマミー』毎週金曜よる10時~

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。