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尾上菊之丞日記~八代目尾上菊五郎の襲名披露お練りはラップとともに

  • 2025.9.5

尾上菊之丞日記~よきことをきく~

8代目菊五郎襲名お練り
神田明神で行われた八代目尾上菊五郎襲名披露のお練り。ラップに寿がれながら、境内を歩む八代目尾上菊五郎と、六代目尾上菊之助。

こんにちは、尾上菊之丞です。ご無沙汰しております。近況と言うには少し時間が経ってしまいましたが、「八代目尾上菊五郎襲名お練り」、「2025年日本国際博覧会 開会式」、「第100回東をどり」、歌舞伎刀剣乱舞「東鏡雪魔縁」「舞競花刀剣男子」など、今年の春から夏までの活動のご報告と、9月末に予定されている16年目となる「逸青会」のお知らせをさせていただきます。

八代目尾上菊五郎さんの襲名披露お練りの演出を担当しました

皆様もご存知かと思いますが、五代目尾上菊之助さんが八代目尾上菊五郎を、七代目尾上丑之助さんが六代目尾上菊之助を襲名しました。私たち日本舞踊尾上流の宗家である尾上菊五郎家の襲名ですから、尾上流にとってもとても大切な行事です。

歌舞伎座での襲名披露公演は、5月と6月の2か月にわたっての開催でしたが、それに先立つ1カ月前の3月31日には、東京の神田明神で「襲名披露お練り」が行われました。その総合演出を私が担当しました。

ラップで音羽屋への歴史と未来の音羽屋へのエールを!そんな斬新なアイデアのもと、全体構成を考えました

襲名披露のお練りというのは、たとえば浅草の浅草寺や成田山の参道など、ある程度長い距離を文字通り練り歩きます。ところが、神田明神の参道は50メートルほどで、距離が短いのです。何かよい工夫はないものかと菊之助(現八代目菊五郎)さん、そしてアドバイザーとして加わっていただいた、クリエイティブディレクターの小橋賢児さんと話しあっている中で、小橋さんからラップという案がありました。

確かに今までにない面白い試みなので、ラップを使って全体をどう組み立てるかというところに、日本のラップ界の父ともいえるZeebraさんにご出演いただけることになり、さらには音楽を太鼓奏者の山部泰嗣さん、笛の藤舎推峰さん、菊五郎劇団音楽部とのコラボレーションで盛り上げることになりました。

八代目菊五郎襲名披露お練り
神田明神の境内を力強く歩く、八代目尾上菊五郎さんと、六代目尾上菊之助さん。

尾上菊五郎家のこれまでの歴史を伝えるラップに包まれながら、八代目と新菊之助さんが歩くという、音羽屋らしい賑やかなお練りになったのではないかと思っています。

二人の菊五郎が同時に存在するという、今までにない特別な襲名

ラップもさることながら、今回のお練りで一番大切にしたことは、七代目と八代目の二人の菊五郎が同時に存在するという、これまでにない極めて特別な襲名をどう表現するか、ということでした。そこで考えたのが、七代目と八代目が境内を挟んで向かいあって対峙し、七代目が待ち受ける御神殿に向けて八代目が新菊之助さんとともに力強く歩き出すということ。そして、最後は御神殿で3人が並んで神様に祈りを捧げるという趣向です。襲名披露の際に、新旧の二人が並んで挨拶する、という光景はよくありますが、向き合う場面というのは、あまりないかと思います。

八代目尾上菊五郎襲名
二人の菊五郎が向かい合うという、これまでにない光景。

八代目が七代目に向かって歩みを進めるとき、神田明神の境内が、菊五郎家の300年の歴史を感じさせるような特別な空間となり、その空間を埋めていくように八代目と新菊之助が歩みを進める。そして御神殿に七代目、八代目、やがては九代目になることが期待される新菊之助とともに三人が並び立つ。そんな光景を見てみたかった。そして大勢の皆様に一緒に感じていただきたかった。

 

襲名披露興行は、10月は名古屋の御園座、12月には京都南座吉例顔見世興行として開催され、来年6月の博多座まで続きます。二人の尾上菊五郎と初々しい菊之助、音羽屋三代の舞台をぜひご覧になってください。

八代目菊五郎襲名お練り
御神殿での成功祈願ののち、八代目菊五郎と六代目菊之助が、「七福神」を奉納。境内には2000人を超える観客が集まった。

大阪・関西万博の開会式でのパフォーマンス

八代目菊五郎さん、そして小橋さんとは、じつはその半月ほど後に、大阪・関西万博でもご一緒しました。開幕日前日の4月12日に万博会場内の「EXPOホール シャインハット」で行われた開会式でのパフォーマンスでのことです。催事企画プロデューサーの小橋さんが全体統括した開会式パフォーマンスは、「生命のリレー」「鼓動」「祭り」などいくつかのパートに分かれています。そのなかの「祭り」パートの歌舞伎演出を監修し、振付けを担当しました。

「関西・大阪万博」開会式パフォーマンス
「大阪・関西万博」の開会式パフォーマンス。©Expo2025 

登場する歌舞伎俳優は、八代目襲名を直後に控えた尾上菊之助さん、中村隼人さん、中村莟玉さん。3人のほかにも、世界的ラッパーのAwichさん、23名の邦楽演奏者と、鼓童や沖縄のエイサー、ダンサーなど、さまざまなジャンルのアーティストがひとつの舞台でコラボレーションする、とても迫力あるパフォーマンスになりました。

万博に参加するのは、1992年にスペイン開催された「セビリア万国博覧会」、2005年に愛知県で開催された「愛・地球博」に次いで今度で3回目です。過去2回はいずれも、菊之助さんと共演、関わった万博全てが八代目菊五郎さんと一緒でした。有難いご縁を感じます。

101回目を迎える来年の「東をどり」の準備もすでに始まっています

5月には「東をどり」が開催されました。100回目を迎えた今回は、日本各地の19か所の花街の芸者・芸妓衆が日替わりでご出演してくださるという、今までにない趣向で行われ、とても賑やかで充実した記念公演となりました。新橋の芸者衆も、やはりゲスト出演してくださった花街の皆様を意識して特に熱が入り、第一幕の「青海波」「百歳三番叟」、第三幕「お好み新橋~希和合夢架新橋(しあわせねがうゆめのかけはし)」ともに、新橋芸者の良さが発揮され、大いにお客様を沸かせました。初日には歌舞伎座でご自身の襲名披露興行中の八代目尾上菊五郎さんが、100回記念の口上でサプライズでご出演してくださり、花を添えていただくなど、公演期間中、新橋の街自体も賑わい、私としてもとても嬉しく充実した1週間となりました。100回記念の公演が大成功だったからこそ、101回目を迎える来年は今まで以上の力を注がなければならない、勝負の年だと思います。101回目に向けてのミーティングもすでに始まっています。パワーアップした来年の「東をどり」にご期待ください。

7月から8月にかけては、「歌舞伎刀剣乱舞」の2作目となる公演が行われました

7月から8月にかけては、東京、福岡、京都で「歌舞伎刀剣乱舞」の「東鏡雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)」が、上演されました。2023年に上演された「月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」に続く第2作目です。1作目と同様、尾上松也さんと共に演出・振付を手掛けました。

刀剣乱舞
尾上松也さんが演じる三日月宗近(後列中央)を中心に、後列左から、河合雪之丞さん、中村獅童さん、前列左から、中村歌昇さん、上村吉太郎さん、中村鷹之資さん、中村莟玉さん、尾上左近さん。(©松竹)

1作目が好評であればあるほど、2作目は難しいものです。でも、「刀剣乱舞」は物語を追うのではなく、ゲームの設定をベースにすること以外、物語や展開は自由度が大きく、その分いろいろなことにチャレンジすることができました。ただ、その一方で一作目をご覧になったお客様の期待もありますし、原作のファンの方々が思い描いている世界も存在します。そういった意味ではプレッシャーを抱えながら作っていったのも事実です。

歌舞伎でしかできない「刀剣乱舞」を目指して

 

今回はお芝居と別立てで、40分ほどの舞踊レビューを取り入れました。古典の歌舞伎舞踊を中心に、刀剣に縁のある土地の民謡なども組み込み、本丸にいる刀剣男子が歌舞伎の様式で踊るという趣向です。第一作を作ったときから意識してきたことですが、突飛なことをするわけではなく、歌舞伎でしかできないやりかたで「刀剣乱舞」を魅せることが第一。歌舞伎と刀剣乱舞は親和性の高さと、互いへの深いリスペクトと愛情があり、この先もっともっと新たな想像を生み出す可能性を秘めていると考えています。

刀剣乱舞
今回新たに参加した、中村獅童さん(手前)と尾上松也さん。歌舞伎ならではの様式美が舞台をより華やかにする。(©松竹)

また、こうした公演が、若手歌舞伎俳優の新たな活躍の場になれば、とも考えています。「刀剣乱舞」など新しい題材は、若者の方がその世界観を掴むことに長けています。そういう意味でも若手が活躍できる作品となり得るので、お客様には若手俳優の活躍にも注目していただきたいです。こういう作品に参加することで、皆で一つの作品を創り上げていく喜びを感じ、教わる力と考える力を養っていくのではないでしょうか。俳優としての自信に繋がり、また古典を勉強する意欲が湧いてくる。それが古典の作品の興行に繋がっていくという、二重三重の効果になっていくことを思い描いています。もちろん、松也さんや僕の成長もお楽しみに!

9月末には「逸青会」が開催されます。今回で16年目となりました

9月末の「逸青会」公演まで1カ月を切りました。今回で16年目となります。昨年は15回記念公演ということで、祭りのように盛大に行いました。だからこそ、なおさら今年は新たなことに挑戦しなければならないと考えています。

その挑戦のひとつが「カンパニーデラシネラ」を主宰する小野寺修二さんにゲストとしてご参加いただくことです。小野寺さんは、パントマイムの動きをベースとした独自の演出や振付けをなさるパフォーマーで、ご自身でもステージに立つなど、古典芸能とはジャンルが異なる分野で活躍してきた方です。ステージ上での人の動かし方や、身体そのもの動きなど、小野寺さんの舞台の作り方やコンセプトに、私は以前からとても憧れていました。

小野寺修二さんとの化学反応

身体の動かし方や、身体での表現は無限だと私は考えています。日本舞踊、歌舞伎、狂言、パントマイムなどジャンルの違いはありますが、身体表現が無限だからこそ、ジャンルを飛び越えて参考にできる何かがあるかもしれない。そんなことを思い、じつは10年ほど前に小野寺さんにお願いし、ワークショップを開催しました。その時は、茂山家の方々や舞踊家の有志も参加し、とても有意義なワークショップとなりました。いつか小野寺さんに「逸青会」に参加していただきたい。そんなことを願い続け、それがようやく叶った次第です。

新作は「おじぞうさん」。ちょっととぼけた妖怪が出てくるお話です。逸青会らしく、人を脅かしたり傷つけたりできない妖怪たちが、自分たちができることに気づく……みたいな話です。今まさに脚本を懸命に作っているところ。いよいよ9月に入ると、本読みや立ち稽古が始まりますが、ワクワクと焦りが渦巻いているところです(いつものことですが……苦笑)。

逸青会
逸青会

15年以上続けた「逸青会」は、もはやライフワークです

15年以上続けた「逸青会」は、完全にライフワークです。とはいえ、惰性ではやりたくないので、常にやりたいこと、新しいものを求めていこうと考えています。と同時に、これまで積み重ねてきた過去の作品も大切にしたいとも考えていますので、機会があったら昨年のように、過去の逸青会作品を上演した完成に近づけていくことも行っていきたいと思います。

尾上菊之丞・茂山逸平 二人会 「逸青会」

・会期:2025年9月27日(土)~28日(日)

・会場:セルリアンタワー能楽堂

・チケット:尾上流公式サイト

 

尾上菊之丞 Kikunojo Onoe

■尾上流四代家元 三代目尾上菊之丞 (おのえ きくのじょう)

1976年生まれ。2歳から父に師事し5歳で初舞台、2011年尾上流四代家元を継承し、三代目尾上菊之丞を襲名。自身のリサイタル「尾上菊之丞の会」、狂言師茂山逸平氏との「逸青会」を主催。新作の創作にも力を注ぎ、様々な作品を発表。新作歌舞伎や花街舞踊、宝塚歌劇団、OSK日本歌劇団やアイススケート「氷艶」「Luxe」など様々なジャンルの演出・振付を手掛ける。京都芸術大学非常勤講師/公益社団法人日本舞踊協会理事

 

「菊之丞FAN CLUB」へのお問合せは、尾上流公式サイトをご覧ください。

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