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25年前、80万枚超を叩き出した“高揚的なのにクールな”アーバンソング 異色タッグが織り成した“新時代の一曲”

  • 2025.10.18

「25年前、街角でこんな音が流れていたことを覚えてる?」

2000年の夏。ミレニアムを迎えた日本は、新しい世紀への期待と不安を胸に、音楽の世界でも変革の波が押し寄せていた。デジタルとアナログ、洋楽と邦楽、クラブシーンとポップシーン――あらゆる境界線が溶け合い始めた頃、その空気を象徴するように放たれた1曲がある。

宇多田ヒカル『タイム・リミット』(作詞:宇多田ヒカル・作曲:宇多田ヒカル、久保琢郎)――2000年6月30日発売

『For you』との両A面でリリースされ彼女にとって6枚目のシングルとなった本作は、最終的に80万枚を超えるセールスを記録し、2000年代J-POPの幕開けを彩った一枚となった。

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2004年、映画『CASSHERN』のプレミア試写会に訪れた宇多田ヒカル (C)SANKEI

アメリカの風が吹き込んだ瞬間

冒頭、印象的に響く「ダークチャイルド」というフレーズ。これは宇多田とともに編曲を手がけたロドニー・ジャーキンスのステージネームであり、ブランディやメアリー・J.ブライジといった世界的アーティストの作品を手掛けた敏腕プロデューサーの別名だ。

R&Bやヒップホップでは、アーティストがプロデューサーやトラックメーカーの名前を曲の中で言及することがあり、これを取り入れたことが画期的だった。それは、洋楽の潮流をただ輸入するのではなく、日本のポップシーンに自然に溶け込ませる試みでもあったのかもしれない。

TAKUROとの意外な交差点

この曲のクレジットには、もうひとつ驚きがある。作曲者として名を連ねている「久保琢郎」は、GLAYのTAKUROの本名だ。ロックバンドの中心人物と、当時18歳にして世界に名を広めつつあった宇多田ヒカルが交わることで、日本のポップスはまた新しい局面を見せた。

TAKURO特有のメロディアスでスケールの大きな楽曲のエッセンスに、ロドニー・ジャーキンスが編み上げる重厚でグルーヴィーなR&Bサウンドが重なり、その両者をまとめ上げるのが宇多田の声――この異色の組み合わせが、唯一無二の化学反応を起こしたのだ。

漂う緊張感と開放感

『タイム・リミット』のサウンドは、徹底的に研ぎ澄まされている。打ち込みのリズムとクールなビートに乗るのは、宇多田の艶やかなボーカル。決して力任せに盛り上げるのではなく、緊張感を保ちながらじわじわと熱を帯びていく構成が特徴だ。

聴くほどに高揚するのに、どこか冷静さを失わない。 そんな二面性が、時代の空気と見事に共鳴していた。

世界基準を肌で感じた時代

2000年前後、日本の音楽シーンはまさに過渡期にあった。ダンス・ユーロビート路線から、よりR&Bやヒップホップを意識したサウンドへと移行しつつあった。その流れを真正面から体現したのが、この『タイム・リミット』だったといえる。

いま聴き返しても、『タイム・リミット』は2000年という時代の“新しい扉が開いた瞬間”を思い出させる。TAKUROの持つメロディアスな感性と、ロドニー・ジャーキンスの世界基準のサウンド。その交差点に、宇多田ヒカルの歌声が存在した。

その融合が、単なる流行の模倣に終わらず、20年以上経った今でも色褪せない輝きを放ち続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。