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40年前、シングルで未来を切り拓いた“クールなのに情熱的な”常識破りソング アイドルを超えキャリアを転じた“進化の一曲”

  • 2025.10.18

「40年前の今頃、どんな音が街を支配していたか、覚えている?」

1985年の秋。ネオンの光に包まれた夜道を歩くと、ラジオやレコード店から流れる音楽が、そのまま未来への期待を映し出していた。きらびやかなダンスチューン、切ないバラード、そしてアイドルたちの甘い声が街に溢れていた。そんな空気の中、ひときわ異彩を放つ1曲が世に出た。

中森明菜『SOLITUDE』(作詞:湯川れい子・作曲:タケカワユキヒデ)――1985年10月9日発売

この曲は彼女のキャリアの中でも重要な意味を持つ作品となった。

新たな組み合わせがもたらした予感

『SOLITUDE』は、作詞に湯川れい子、作曲にタケカワユキヒデを迎えた。これまでの中森明菜のイメージと異なる布陣は、すでに「挑戦」の色を帯びていた。そして編曲を手がけたのは中村哲。彼の音作りが、作品に都会的で洗練された質感を与えた。

ミディアム・テンポで進むメロディは、彼女の歌声を過度に飾り立てることなく、静かにその存在感を浮かび上がらせる。きらびやかな時代の中で、あえてトーンを抑えたナンバーをシングルに選んだという事実こそが、「彼女自身の意思で未来を切り拓こうとしていた証」だった。

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1985年、第27回日本レコード大賞を受賞した中森明菜 (C)SANKEI

アイドルからアーティストへ

1980年代半ば、中森明菜はすでにトップアイドルとして不動の地位を築いていた。『少女A』や『飾りじゃないのよ涙は』といったヒット曲で、彼女は「アイドル」という枠を超えた表現力を見せつけていたが、『SOLITUDE』はその流れをさらに推し進めた作品といえる。

この楽曲をシングルに選んだのは本人の意志だと伝えられている。一般的なアイドル像に沿うのではなく、自らの進化を示すことを選んだ。「中森明菜は、ただの歌う存在ではなく“表現者”なのだ」という強いメッセージが込められていたと思う。

静けさが放つ強さ

『SOLITUDE』の最大の魅力は、派手さを排しながらも確固たる存在感を放つ点にある。湯川れい子の歌詞は、表情を押し殺したような余白を持ち、タケカワユキヒデのメロディは繊細かつダイナミック。そのバランスを中村哲のアレンジが支え、大人の香りを漂わせながら都会の夜を描き出した。

そこに響くのは、アイドルらしい無垢な声ではなく、成熟へと向かう女性のボーカル。明菜の声が持つ陰影が、楽曲の世界観に見事に溶け込んでいる。結果として、『SOLITUDE』は単なるヒット曲ではなく、「彼女のキャリアにおける大きな転換点」として後に語られることになった。

“挑戦”の先に見えたもの

『SOLITUDE』のリリースは、音楽業界にとっても小さな衝撃だった。1985年当時、女性アイドルはポップで分かりやすいメロディを歌うことが定石とされていた。しかしこの作品はその常識を崩し、アーティスト性を前面に打ち出す道を選んだのだ。

実際、この後の中森明菜は『DESIRE -情熱-』や『TANGO NOIR』といった個性的な作品で評価を確立し、昭和のアイドル像を根本から更新していく。『SOLITUDE』はそのプロセスの入口に位置していたといえる。

時代を超えて響く余韻

40年が経った今、『SOLITUDE』を聴くと、当時の空気だけでなく、ひとりのアーティストが自らの足で未来へ踏み出す瞬間が刻まれているのを感じる。華やかさの影でふと立ち止まり、自分の存在を確かめるような静けさ。その感覚は、今のリスナーにも鮮明に伝わってくる。

流行に流されず、自ら選んだ音で勝負する勇気。 それは1985年の秋に放たれた『SOLITUDE』が、今も色褪せず語り継がれる理由なのだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。