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40年前、流行から生まれた“異端な二面性ソング” コミカルで切ない…軽そうで普遍的…“チグハグな愛の名曲”

  • 2025.10.24

「40年前、血液型で本気で盛り上がってたの覚えてる?」

1985年の夏。ラジオから流れてきたのは、なんともユニークでありながら、最後には胸を締めつけるバラードへと姿を変える一曲だった。

さだまさし『恋愛症候群-その発病及び傾向と対策に関する一考察-』(作詩・作曲:さだまさし)――1985年8月28日発売

血液型と恋愛をつなぐユーモア

この楽曲が当時から際立っていたのは、冒頭から血液型性格分類をベースにした歌詞展開にあった。A型は几帳面、B型は自由奔放、O型はおおらか、AB型は気まぐれ――そんな“誰もが一度は聞いたことのある定番のフレーズ”を、さだ流の言葉遊びで次々と繰り出していく。

聴き手は思わずクスッと笑いながらも、「自分はどのタイプだろう?」と鏡をのぞくような気持ちになった。

ただのジョークソングではなく、血液型と恋愛観を軽妙に絡めることで、日常の会話をそのままステージにのせたような親近感を生み出していた。

当時は今ほど科学的に血液型性格分類が否定されてはいなかった。むしろ雑誌やテレビが盛んに取り上げ、日常会話のネタとして定着していた。『恋愛症候群』はまさにその時代の空気を写し取った“軽快なコミュニケーションの歌”でもあったのだ。

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さだまさし-1990年撮影 (C)SANKEI

コメディからバラードへ、二面性の妙

曲の構成は、まるで二幕の芝居のようだ。前半はユーモラスに恋のドタバタを描き出すが、後半に入ると雰囲気は一転。メロディはしっとりと落ち着き、歌詞もバラードとしての温度を帯びてくる。笑いの余韻から急に訪れる切なさ。そのコントラストが、この曲最大の魅力だった。

当時のリスナーにとって、この仕掛けは驚きでもあり、同時に「さだまさしって、やっぱりただものじゃない」という再認識を促したに違いない。

独自の立ち位置を築いたシンガー・ソングライター

『関白宣言』や『案山子』などの名曲で知られるさだまさしは、シリアスな抒情性とユーモラスな語り口を自在に行き来する希有な存在だった。1980年代半ばは、アイドル歌謡やシンセポップがシーンを賑わせていた時代。そんななかで、ギターと歌詞の力だけで勝負するシンガー・ソングライターの姿は、ある意味“異端”でもあった。

だがその異端さこそが、さだを唯一無二にしていた。『恋愛症候群』のようにコミカルさとロマンチシズムを一曲の中で共存させられる作家は、ほかにはいなかったのだ。

笑いの奥に残る余韻

1985年という年は、時代の流れで街が浮き立つ一方、人々の心にはまだ“昭和的な慎ましさ”も生きていた。その両方を抱きとめるように、この曲は笑いと切なさを行き来しながらリスナーの胸に刻まれた。

恋って結局、理屈じゃなくて気持ちなんだよな――そんな当たり前のことを、笑いの中で改めて教えてくれる。

40年経った今聴き返しても、『恋愛症候群』は決して色褪せない。血液型という一見軽いテーマを扱いながら、最終的には普遍的な愛の歌にたどり着く。さだまさしの真骨頂とも言える一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。