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20年前リリース→初登場1位を飾った“素朴だけど劇的に刺さる”異色バラード アコギ一本で導く“胸を震わせる一曲”

  • 2025.10.17

「20年前の秋、どんな音楽が心に残っていた?」

2005年、街には着うたのメロディが響き、携帯電話が新しい音楽体験の入口になっていた。CDのセールスが徐々に落ち込み始めても、音楽そのものの輝きは消えていなかった。そんな時代に、ひときわ胸に突き刺さる一曲が生まれる。

宇多田ヒカル『Be My Last』(作詞・作曲:宇多田ヒカル)――2005年9月28日発売

この楽曲は、行定勲監督の映画『春の雪』の主題歌となった。ランキング初登場1位を記録し、さらに第20回日本ゴールドディスク大賞で「ソング・オブ・ザ・イヤー」を受賞する。華やかなヒットチャートの中で、圧倒的な存在感を放った“異色のバラード”だった。

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2004年、映画『CASSHERN』のプレミア試写会に訪れた宇多田ヒカル (C)SANKEI

静けさに潜む衝撃

宇多田ヒカルといえば、日本デビュー曲『Automatic』から数々のヒットを飛ばし、ポップスとR&Bを自在に行き来するサウンドで時代を切り拓いてきた存在だ。しかし『Be My Last』は、そんな彼女の代表的な楽曲群とは明らかに違っていた。

アコースティックギターを大胆に前面に押し出したアレンジ。電子的な要素をそぎ落とし、あえて“余白”を残したサウンドに、彼女のボーカルが鋭く、そして儚く響く。その静けさが逆に力強く、聴く者の心を深く揺さぶった

こんな宇多田を聴いたことがない――多くのリスナーがそう感じたに違いない。

映画と響き合う物語性

主題歌となった映画『春の雪』は、三島由紀夫の小説を原作にした作品。大正時代を舞台に、恋愛と運命の悲劇を描いた重厚な物語だ。その繊細で抑え込まれた情熱を、宇多田の声が余すことなく代弁していた。

彼女の楽曲はこれまでも数々のドラマや映画を彩ってきたが、『Be My Last』は特にその世界観との親和性が高く、音楽と映像が互いを高め合った一例といえるだろう。

規格外の共感性

『Be My Last』が人々の心に残った理由は、その“シンプルさ”にある。派手なアレンジではないのに、聴いた人の心を強烈に揺さぶる。

「なぜかわからないけれど涙が出る」

そんな感覚を覚えた人も少なくなかった。音楽的な技巧を超え、歌声と旋律がダイレクトに感情へと突き刺さる。まさに“規格外の共感性”を持った曲だった。

宇多田ヒカルの新たな地平

当時22歳の宇多田ヒカルは、すでに国民的アーティストとしての地位を確立していた。しかし、『Be My Last』はそんなキャリアの延長線上ではなく、あえて新たな一歩を踏み出した作品だった。

ポップでもR&Bでもなく、静かなアコースティックバラード。そこに彼女の内面性や表現力がにじみ出ていた。この一曲をきっかけに、宇多田が単なるヒットメーカーではなく、“表現者”としての存在をさらに強めていったことは間違いない。

余韻としての時代

2005年という時代は、音楽が“便利に消費される”方向へと舵を切り始めていた。しかし『Be My Last』は、そんな流れとは対照的に、じっくりと聴き込むことで深く沁みる曲だった。

それから20年。音楽の聴き方が大きく変わった今でも、この曲を耳にすると、当時の空気感が蘇る人は多いだろう。静かに、しかし確実に胸を震わせるその旋律は、時代のノイズを超えて響き続けている。

派手ではないのに、忘れられない。

そんな存在感こそが、『Be My Last』を“永遠に朽ちぬ曲”たらしめているのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。