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20年前リリース→映画主題歌で記憶に刻んだ“ポップなのにほろ苦い”青春アンセム 観客の記憶に溶け込んだ“歓びの一曲”

  • 2025.10.17

「20年前、あの映画館の空気を覚えてる?」

2005年の秋。携帯から最新のヒット曲が鳴り響き、週末の映画館には学生から家族連れまで多くの人が集まっていた。そのスクリーンに流れたのは、青春の代名詞ともいえる漫画『タッチ』の実写映画版。スクリーンの上で描かれる恋と葛藤に寄り添うように響いたのが、この曲だった。

YUKI『歓びの種』(作詞:YUKI・作曲:蔦谷好位置)――2005年9月7日発売

映画のために書き下ろされたこの楽曲は、作品世界に新しい息吹を与えるだけでなく、当時の空気を閉じ込めた“青春の証明”として、多くの人の胸に刻まれた。

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2004年、渋谷パルコのクリスマスツリー点灯式に登場したYUKI (C)SANKEI

YUKIという存在の輝き

ソロアーティストとして活動を始めたYUKIは、その唯一無二の声と瑞々しい存在感で、2000年代半ばの音楽シーンを駆け抜けていた。もともとJUDY AND MARYのボーカルとして時代を象徴した彼女が、ひとりの表現者として放ったシングル『歓びの種』は、「映画の主題歌だから」ではなく「YUKIの歌だから」心に届いたと言える。

彼女の声は透明感の中に熱を秘め、聴く人それぞれの青春や恋愛、そして不安や希望を映し出す鏡のようだった。映画の中で描かれる恋の揺らぎと、YUKIが歌う「歓び」という言葉が重なり合う瞬間、それは単なる主題歌を超えて、観客の記憶そのものに溶け込んでいった。

蔦谷好位置との化学反応

この楽曲を作曲したのは、YUKI作品に欠かせない存在となっていた蔦谷好位置。2004年の『JOY』で示された二人の相性の良さは、その後も『長い夢』『ドラマチック』とつながっていく。『歓びの種』も、そうした流れの中で生まれた一曲だった。

蔦谷が紡いだ旋律は、美しくもケレン味あふれる抑揚を持ち、YUKIの声が乗った瞬間に一気に景色を描き出す。ポップでありながらどこか切なさを帯びる旋律線が、聴く人の心を自然に引き込むのだ。二人の継続的なタッグが築いた信頼関係は、このメロディの中にもしっかりと息づいている。

映画『タッチ』と重なる風景

『タッチ』は言うまでもなく、青春漫画の金字塔。実写化にあたり、多くのファンが「どう描かれるのか」と期待と不安を抱いていた。YUKIが歌う『歓びの種』は、その期待をやさしく受け止め、映画全体のトーンを象徴する楽曲となった。

映画館を出たあと、頭の中で繰り返し流れていたメロディ。青春の甘酸っぱさと、どこか取り返しのつかない切なさを抱えながら歩いていたあの時代の自分自身と重なる。そう感じた人は少なくないはずだ。

時代に刻まれた“歓び”の余韻

2005年という年は、音楽の楽しみ方がCDから配信へと移り変わり始めた時期だった。そんな移行期にリリースされた『歓びの種』は、デジタル時代の入り口にありながら、アナログ的な“記憶に残る力”を放っていた。

YUKIの歌声が映画を彩り、蔦谷好位置の音が未来を予感させる。そこに映し出されたのは、ただの主題歌ではなく、“20年前の自分が確かに存在した証”だったのかもしれない。

今あらためて聴き返すと、当時の風景や匂いが鮮やかに蘇る。『歓びの種』は、青春のきらめきと切なさを閉じ込めたまま、今も静かに輝き続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。