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30年前リリース→アルバム曲を再編した“湿っぽいけど透明な”哀愁ソング 原曲と呼応した“ドラマティックな名曲”

  • 2025.10.16

「30年前の秋、あなたはどんな音を聴いていた?」

1995年、秋。夕暮れの駅前、冷たくなりはじめた風に吹かれながら耳に飛び込んでくるのは、哀愁を帯びたメロディ。そこには、季節の変わり目の心細さを静かに映し出す1曲があった。

L’Arc〜en〜Ciel『夏の憂鬱 [time to say good-bye]』(作詞:hyde・作曲:ken)――1995年10月21日発売

哀しみを抱えたリカットシングル

この楽曲は、同年9月に発売された3rdアルバム『heavenly』に収録されていた『夏の憂鬱』をリアレンジしてシングル化したもの。メジャー3作目のシングルとして届けられた。シングルバージョンでは歌声から幕を開ける構成へと変化し、聴く者をいきなりhydeの感情に引き込む仕掛けになっている。さらに一部メロディも追加されるなど、原曲の空気を保ちながらもドラマティックに膨らませたアレンジが印象的だ。

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ボーカルのhyde-1997年撮影 (C)SANKEI

湿度を帯びた旋律とhydeの声

『夏の憂鬱 [time to say good-bye]』の最大の魅力は、じめりつくようなメロディラインに漂う“夏の終わり”の哀愁だろう。晴れやかな夏ではなく、むしろ雨上がりの曇り空を思わせるサウンド。その中でhydeの透明感と陰りを併せ持った歌声が、切なさをさらに強調していく。kenによるメロディは、シンプルでありながら湿度をはらんでおり、どこか閉塞的な夏の記憶を呼び起こす。

このシングルは大きなヒットには至らなかった。だがだからこそ、ファンの間では“隠れた名曲”として特別視されてきた。華々しいヒット曲に比べると地味に映るかもしれない。けれども、聴いた人の心に深く沈み込み、じわじわと残り続けるタイプの楽曲だ。こうした存在感は、ラルクがただのヒットメーカーではなく、繊細な表現力を持つバンドであることを証明している。

1995年のラルクと音楽シーン

当時のL’Arc〜en〜Cielは、まだ爆発的な人気に到達する前夜にいた。『heavenly』期の彼らは、のちの大ヒット曲群に比べると叙情的な楽曲が多く、その“移行期の空気”が濃厚に漂っていた。『夏の憂鬱 [time to say good-bye]』は、そんなラルクが進化の途中で残した、ひとつの実験的な結晶ともいえる。

1995年という時代は、バンドブームの新しい担い手が台頭していた頃。その中でラルクも着実にファンを広げていったが、この曲は世間的な流行よりもむしろ内面に沈み込むような響きを持っており、ひときわ異彩を放っていた。

今も聴きたくなる“終わらない夏”

タイトルに込められた「夏の憂鬱」という言葉は、誰もが一度は感じたことのある感覚を呼び覚ます。明るさの裏にある寂しさ、終わりを予感させる空気を音楽に閉じ込めた1曲。華やかさよりも、余韻や湿度で心に残るタイプの楽曲だからこそ、今なおリスナーの記憶に寄り添い続けているのだ

30年経った今も、この曲を聴くと“あの夏”の湿った風景が胸に蘇る。それは、時代を越えても失われない音楽の力であり、ラルクが放った小さな奇跡の証なのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。