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30年前、30万枚超えを記録した「甘いのにゾクッとする」異端ヒットソング カセット文化と共鳴した“切り裂く中毒ロック”

  • 2025.10.14

「30年前、あの狂気じみた熱を覚えてる?」

1995年の秋。街角にはネオンの下で行き交う若者たちのざわめきが響いていた。CDショップの店頭には最新のJ-POPがずらりと並び、ランキングの上位を占めるのは、小室ファミリーやビーイング系のアーティストたち。そんな中で、ひときわ異彩を放つロックバンドの一曲が現れる。

黒夢『BEAMS』(作詞・作曲:清春)――1995年10月13日発売

5枚目のシングルとして世に放たれたこの楽曲は、マクセル「PO’z」カセットテープのCMソングとして耳に届き、やがて街中を席巻した。累計で30万枚以上を売り上げ、バンドの存在を強烈に刻みつけたのだ。

闇の中に光るエネルギー

黒夢のボーカル・清春が手がけた『BEAMS』は、ラブソングでありながら、ただ甘いだけではない。ギターの鋭いリフとドラムの重さに支えられたサウンドは、どこか危うさを孕んでいる。そこに清春の艶やかで鋭いボーカルが乗ることで、聴く者を引きずり込むような独特の世界観が完成した。

“心地よさと狂気が同居する”。それこそが『BEAMS』最大の魅力である。ラブソングでありながら、柔らかい旋律にとどまらず、むしろ不安と執着が入り混じったような空気を纏っていた。

バンドが走り抜けた時代の速度

黒夢は、1990年代前半からヴィジュアル系ムーブメントの一角を担いながら、シーンを常に先導してきた。『BEAMS』が出た頃、彼らはすでに勢いを増しつつあり、メディア露出が増える一方で、音楽性はポップさとアンダーグラウンドの匂いを併せ持つ独自の進化を遂げていた

このシングルが注目された理由のひとつは、やはりタイアップの力だろう。マクセル「PO’z」のテレビCMで繰り返し流れたフレーズは、多くの人の耳に焼き付き、当時のカセット文化とともに記憶されている。MDやCD-Rが浸透し始めた時代だったが、まだまだカセットは“音楽の記録媒体”として青春と直結していた。その空気の中で流れた『BEAMS』は、まさに時代を切り取る存在だった。

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2025年2月、デビュー30周年記念ライブ「CORKSCREW A GO GO! SAINT MY FAKE STAR」の追加公演を開催した黒夢 (C)SANKEI

セールスの裏にある確かな存在感

累計30万枚以上という数字は、1995年当時の大ヒット曲と比べれば派手ではないかもしれない。だが、黒夢というバンドが持っていたオルタナティブな立ち位置を考えれば、十分に“異端のヒット”と呼ぶにふさわしい。むしろその売れ方こそが、彼らがメジャーシーンとアンダーグラウンドの間を自在に行き来していた証でもあった。

「どこか新しく、どうしても聴きたくなる」

そんな感覚をリスナーに与えることで、この曲は多くのファンの心を掴み、黒夢の代表曲のひとつとして語り継がれていく。

狂気とロマンが交錯する余韻

『BEAMS』は、ただのヒットソングではなかった。清春が書き下ろしたラブソングは、愛の美しさと狂気の境界線をなぞるように響き渡った。だからこそ、90年代の音楽シーンを知る世代にとって、この曲は当時の街のざわめきや夜の匂いとともに記憶されているのだ。

今もなお聴くものの心を揺さぶるのは、その危うさと輝きが色褪せないからだろう。『BEAMS』は、30年前の秋に放たれたその瞬間から、時代を超えて存在し続ける“美しき狂気のラブソング”なのである。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。