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「優しいけど芯がある」20年前、15万枚超えの“異例デビュー”を飾った“透明ハイトーンのドラマ主題歌” 異国シンガーが歌う“日本の春ソング”

  • 2025.10.6

「20年前の春、あなたはどんな音に心を重ねていた?」

2005年3月。街には新しい季節の気配が漂っていた。卒業式へ向かう学生、就職や転勤を控える社会人。誰もがそれぞれの未来に期待と不安を抱きながら歩いていた。そんな日々の夜、テレビから流れてきたのは、どこか異国の風をまとった切ない歌声。澄み渡る声に耳を奪われた人々の間で、次第にその名前が広がっていった。

K『over…』(作詞:shungo.・作曲:tetsuhiko)――2005年3月2日発売

韓国・ソウル出身の男性シンガー、Kのデビューシングル。TBS系ドラマ『H2〜君といた日々』の主題歌として制作され、多くの視聴者の胸に刻まれる一曲となった。

伸びやかな声が描く“余白の美”

Kの最大の魅力は、やはりその歌声にある。透明感のあるハイトーンと、芯の通った響きを併せ持つ声質は、曲の中で一層際立った。聴く人を優しく包み込みながらも、心の奥に揺さぶりを残す歌声。その美しい声の響きで、瞬く間に注目を集めた。

作詞を担当したshungo.が描く言葉は、恋の痛みをベースに紡ぎ、誰もが共感できる普遍的な感情を映し出していた。tetsuhikoによるメロディも、切なさと清涼感を巧みに織り交ぜた構成で、Kの声の透明感を際立たせている。

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2006年、映画『タイヨウのうた』試写会に登場したK (C)SANKEI

ドラマと共鳴した青春の響き

『H2〜君といた日々』は、あだち充の人気野球漫画をドラマ化した作品。山田孝之、石原さとみ、市川由衣らが出演し、若者たちの青春と恋を描いた物語は、放送当時、多くの支持を集めた。

物語の余韻に寄り添うように流れてきた『over…』は、視聴者の感情をそのまま音楽に変換したかのような存在だった。試合後の静かなグラウンド、夕暮れの教室、すれ違う心――そうした場面に溶け込むように響いたこの曲は、ドラマを観る体験そのものをより深く記憶に刻んだ

新人として異例の成果

当時の音楽業界はすでにCD市場の縮小が始まっており、新人アーティストにとって大きなヒットを飛ばすのは難しい時代だった。そんな中、『over…』はCDで15万枚以上を売り上げ、デビュー作としては異例の成果を収めた。これはドラマタイアップの力だけでなく、純粋に楽曲と歌声の魅力がリスナーに届いた結果といえるだろう。

さらに、このヒットをきっかけにKは音楽番組にも多数出演し、その存在を広く知られるようになった。

日本に根を下ろした“異国の声”

Kは韓国出身でありながら、日本語で歌い、繊細な表現を自然に届けることができる稀有な存在だった。その異国感と親しみやすさのバランスが、当時のリスナーにとって新鮮に響いたのだろう。国境を越えて届いた歌声が、誰かの日常を彩り、心を揺さぶった。それは、音楽が言語や文化を超えて伝わる力を証明する出来事でもあった。

あの春の記憶を呼び起こす

イントロが流れるだけで、当時の街の風景がよみがえる。暖かな日差しに包まれた午後、駅のホームでの別れ、友人と語り合った未来のこと。『over…』は、そんな個々の青春の断片をそっと呼び起こす装置のような一曲だ。

Kの第一歩は、単なるデビューの成功にとどまらない。あの時代を生きた人々の心に、今も確かに残る“春の記憶”を形にしたのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。