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36年前に放送された“名作ドラマ” 後に“有名なヒット作”を生み出す脚本家が描いた青春ラブストーリー

  • 2025.11.17

1989年に放送された連続ドラマ『同・級・生』は、大学生の時に別れた恋人が、社会人になった今もお互いのことが忘れられずに思い悩む姿を描いた青春ラブストーリーだ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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安田成美 (C)SANKEI

鴨居透(緒方直人)と名取ちなみ(安田成美)は同じ大学の同級生で恋人同士だったが、就職活動をきっかけに二人の心はすれ違い、やがて別れてしまう。

その後、鴨居は広告代理店に就職。ちなみもリサーチ会社に就職し、二人は社会人となった。

大学時代の仲間との飲み会に参加した鴨居は久しぶりに旧友と再会。しかし、そこにはちなみの姿はなかった。
がっかりする鴨居だったが翌日、ちなみから電話がかかってきて、二人は会うことに。

再会した二人は、別れた日のことを振り返る。

鴨居はちなみとの関係をもう一度やり直したいと考えるが、ちなみは鴨居の気持ちを拒絶する。だが、二人は自分の気持ちをうまく整理できていないようで、その後も何かある度に、会うようになっていく。

一方で鴨居は会社の後輩の佐倉杏子(菊池桃子)からアプローチを受けて、やがて付き合うようになる。そしてちなみも大手建設会社で働く飛鳥浩史(石田純一)からプロポーズされ、鴨居と飛鳥の間で気持ちが揺れ動く。

鴨居とちなみには付き合っている人がいるのだが、二人とも昔の恋人のことが忘れられず、どちらを選ぶかで思い悩んでいる。
この悩みは、大学時代の青春という幸福だった過去を選ぶか、現在を選ぶかという葛藤につながっている。

劇中ではオープニング映像として、ZIGGYの歌う主題歌『GLORIA』にのせて大学生の鴨居とちなみがデートをしている楽しそうな姿が毎回流れる。
このオープニング映像はクオリティが高く、二人の大学時代がキラキラしていたことに説得力を与えている。そのため、話数が進めば進むほど、あの頃の二人の青春は輝いていたという思いが、視聴者の間でも共有されるようになり、鴨居とちなみの葛藤がわかるようになっていく。

その意味でストーリーを補完する素晴らしいオープニング映像である。

新人脚本家だった坂元裕二が描いた当時の若者の気分

『同・級・生』はフジテレビの月9(月曜夜9時枠)で放送された。

脚本は坂元裕二。原作は柴門ふみの同名漫画。

柴門ふみの原作漫画を坂元裕二の脚本でドラマ化した月9のラブストーリーと言うと、1991年に大ヒットした『東京ラブストーリー』が有名である。
対して『同・級・生』は、坂元裕二にとっては初の連続ドラマだったこともあってか、物語の見せ方が不器用で少しぎこちないところがある。だが、物語全体に若々しさがあり、ストーリーのぎこちなさも鴨居とちなみの不器用な心情を反映しているようで、好感が持てる。

何より台詞が瑞々しく、80年代後半に大学で青春を過ごして社会に出た当時の若者の楽しそうな気分が滲み出ている。

1987年に第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞した坂元裕二は、『同・級・生』を書いた時はまだ20代前半で、大学を卒業して社会人になった鴨居やちなみと同世代だった。

おそらく坂元は、自分や同世代の友人が使う言葉や気分をそのまま書いていたのだろう。 それは柴門ふみの原作漫画の鴨居やちなみと比べるとよくわかる。

柴門ふみの漫画は、物語やキャラクターが明快で、登場人物の悩みや葛藤を言語化してはっきりと描かれている。そのため、仕事や恋愛のことでちなみや鴨居が思い悩む姿は、実年齢よりも大人っぽく見える。

対して、坂元の脚本は原作漫画で丁寧に描かれていた各登場人物の説明を抑制しており、内面を吐露する場面も、原作漫画と比べると少ない。

代わりに繰り返し描かれるのが、思っていることを言えずに、冗談を言ってごまかして、楽しそうにじゃれ合う恋人や友達の姿だ。
仲間内で楽しくじゃれ合う姿が強調されているため、柴門ふみの漫画と比べると何倍も幼く見えるのだが、おそらくこの幼さと中々本音を言えない男女の姿こそが、坂元にとっては、同世代の若者のリアルだったのだろう。

80年代後半のフジテレビは、若者の風俗に寄り添ったおしゃれな恋愛模様を描いたトレンディドラマを打ち出すことで、若者の支持を獲得した。
そして、若手新人脚本家を積極的に起用することで、若い感性をドラマの中に取り入れようとしていた。その筆頭が坂元裕二だった。

『花束みたいな恋をした』と見比べることでわかる時代の変化。

『君の瞳をタイホする!』等のトレンディドラマは、すでに社会に出て働く女性に向けて作られたドラマだった。そのためファッション雑誌のようなおしゃれなビジュアルとポップな音楽が全面に打ち出されており、物語は複数の男女による恋愛群像劇が多かった。

対して『同・級・生』は、物語の流れはトレンディドラマの構造をなぞっているが、中心にあるのは、大学を卒業して社会人になった当時20代前半の若者に向けて作られた青春ラブストーリーであり、仕事と恋愛を経て若者が成長していく姿が不器用ながらも描かれていた。

本作で坂元が描いた当時の若者が抱えていた気分は、後に『東京ラブストーリー』で爆発することになるのだが、彼が描く若者たちが持っている楽しそうな気分を支えていたのは、バブルで好景気だった日本の豊かさだったのだろう。

この辺りは2021年に坂元が脚本を担当した土井裕泰監督の映画『花束みたいな恋をした』と比べるとより深く理解できる。

本作は2010年代後半に同棲していた大学生のカップルが社会に出て働く中で気持ちがすれ違うようになり、やがて別れを選択する物語だが、大学生のカップルが社会人に成長する姿を描いているという意味で『同・級・生』と重なる部分が多い。

だが、労働環境の描き方は大きく異なり、80年代と比べて日本社会の価値観が大きく変化して余裕がなくなっていることが、とてもよくわかる。

その意味でも『花束みたいな恋をした』と比較しながら観ると『同・級・生』は、より楽しめるのではないかと思う。

本作を通して、まだ豊かだった日本で暮らす80年代の若者たちの明るい気分を追体験してほしい。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。