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受験や発表会のプレッシャーでお腹が痛くなる子ども。寄り添い方について医学博士石岡先生にお伺いしました

  • 2025.8.5

「受験の朝になると必ずお腹が痛い」「発表会の前にトイレから出てこない」―そんな子どもの様子に、心配になったことはありませんか?

ママ広場

実は、強い緊張や不安からお腹の調子を崩してしまう子どもは少なくありません。この症状は「気のせい」ではなく、れっきとした「体と心のつながり」による反応。とはいえ、どう接していいのか分からず戸惑う保護者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、ストレスやプレッシャーによって起こる子どものお腹の不調について、原因や対処法、治療法、そして親としての寄り添い方まで、わかりやすく解説します。「うちの子もそうかも・・・」と感じたら、まずはここから一緒に理解を深めていきましょう。

受験や発表会でお腹が痛くなる子どもが増える理由とは?

誰でも緊張するとドキドキしたり、手に汗をかいたりしますよね。実はそれと同じように、腸も緊張に敏感に反応しやすく、腹痛や便意につながることもあります。一時的な緊張による腹痛であれば、心配しすぎる必要はありませんが、同じような症状が繰り返されたり、学校に行けなくなるほどつらい場合は、「機能性消化管障害(FGIDs:Functional Gastrointestinal Disorders)」という慢性的な胃腸の不調が関係していることもあります。

機能性胃腸症とは、検査をしても特に異常が見つからないのに、お腹の痛みや下痢・便秘などが続く状態をいいます。小学生や中学生でも見られ、日本では中学生の2〜5%、高校生の5〜9%がこの症状に悩んでいるという報告もあります[※1]。特に、まじめで頑張り屋さん、あるいは内向的な性格の子ほど、こうした不調を抱えやすい傾向があります。また、家庭内での会話の少なさや、親の期待、周囲との比較などが、知らず知らずのうちに子どもの負担になっていることも。「またお腹が痛いの?」「行きたくない理由を作ってるだけでは?」と決めつけず、まずは子どもの感じている「つらさ」に寄り添うことが、解決への第一歩になります。

機能性消化管障害(FGIDs)とは?

検査では異常が見つからないのに、腹痛や下痢、便秘、胃の不快感などが続く―それが「機能性消化管障害(FGIDs)」と呼ばれる状態です。子どもが「お腹が痛い」と訴えても、血液検査やレントゲン、内視鏡検査で異常が見つからないと、「気のせいでは?」「さぼりたいだけでは?」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし、機能性消化管障害(FGIDs)はれっきとした病態であり、「脳と腸のコミュニケーションの不調(脳腸相関の乱れ)」や、「腸の神経が過敏になる」ことが原因で起こると考えられています。小児は特に生活や環境の影響を受けやすく、たとえば、進学や発表会、友人関係、家族の会話、さらには成績や受験といった心理社会的なストレスが、強く影響します。また、子供は症状をうまく言葉にできず、「なんとなく気持ちが悪い」「朝は食べたくない」「学校に行きたくない」など、曖昧な表現になりやすいことも特徴です。

主な機能性消化管障害(FGIDs)の種類と特徴

機能性消化管障害(FGIDs)はさまざまなタイプがありますが、代表的なものに「機能性ディスペプシア(FD)」「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」「過敏性腸症候群(IBS)」の3つがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。

1) 機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)
機能性ディスペプシア(FD)は、胃の痛みや食後の不快感、胃もたれといった「みぞおち周辺の症状」が続く病気です。検査では潰瘍や炎症などの異常は見つかりませんが、「食後すぐにお腹いっぱいになる」「朝ごはんが食べづらい」といった訴えが特徴です。子どもでは、胃のムカムカ感や食欲不振として現れることが多く、「食べたくない」とだけ訴えることもあります。FDの一部は、次に紹介するNERDと重なることがあります。

2) 非びらん性胃食道逆流症(NERD:Non-Erosive Reflux Disease)
非びらん性胃食道逆流症(NERD)は、逆流性食道炎に似た症状があるにもかかわらず、内視鏡では炎症が見られないタイプの疾患です。胸やけやのどの違和感、胃酸が上がってくるような「呑酸(どんさん)」といった症状が見られます。子どもでは「のどがおかしい」「気持ち悪い」といった曖昧な表現をすることもあり、咳や食欲不振が初発症状になることもあります。

3)過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)
最もよく知られているのが、過敏性腸症候群(IBS)です。IBSは、腹痛に加えて下痢や便秘、あるいはその両方を繰り返すことが特徴の病気です。排便によって一時的に痛みが軽くなることも多く、「朝だけお腹が痛い」「学校に行く前にトイレにこもる」といった形で症状が現れることがあります。IBSには「下痢型」「便秘型」「混合型」などのタイプがあり、症状に応じた対応が求められます。子どもでは登校への不安や緊張が大きな誘因となることが多く、学校生活に支障をきたすケースも少なくありません。

機能性消化管障害は、「検査で異常がないから問題ない」のではなく、「検査で異常が見つからないけれど、つらい症状がある」状態です。思春期の子どもにとって、ストレスをうまく処理する力はまだ発展途上。だからこそ、「体の症状として出る」ことがあるのです。「またお腹が痛いの?」と否定せず、まずは疾患への理解を深め、親子で共有する姿勢が、改善への第一歩になります。

ママ広場

「お腹が痛い」と言われたら、どう対応すればいい?

お子さんに「お腹が痛い」と言われたとき、まず大切なのは、その気持ちに共感し、安心させてあげることです。身体的な異常が見つからない「機能性ディスペプシア(FD)」や「過敏性腸症候群(IBS)」といった機能性消化管障害(FGIDs)では、精神的なケアが症状の緩和につながることも少なくありません。「痛いんだね」「つらいね」といった寄り添いの言葉をかけるだけでも、子どもは安心し、痛みが和らぐことがあります。

具体的な家庭での対処としては、まず騒がしい場所を避け、静かで落ち着ける環境で休ませてあげることが基本です。また、辛いものや脂っこいものなど、腸に刺激を与える食べ物は控え、規則正しい時間にバランスのとれた食事をとるよう心がけましょう。さらに、十分な睡眠と軽い運動は、自律神経のバランスを整え、腸の働きを助けます。加えて、趣味や遊びなど、子どもがリフレッシュできる時間を確保することも大切です。たとえば、親子でお茶を飲みながら会話を楽しむ時間を持つなど、リラックスできるひとときを一緒に過ごすことは、ストレスマネジメントの一環として非常に有効です。

こうした対応は、一見ささいなことのように思えるかもしれませんが、実際の診療ガイドラインでも、ライフスタイルや生育環境が病態に関与することが明記されており、保護者の共感や家庭での安心感が、子どもの腹痛の軽減に大きく影響するとされています[※2]。ただし、症状が長引く場合や、夜間に目が覚めるほど強い痛みがある場合には、自己判断せず、早めに医療機関を受診することが重要です。

お医者さんに診てもらった方がいい場合もある?受診の目安と「危険なサイン」

お子さんの「お腹が痛い」という訴えに対して、まずは家庭で見守ることも大切ですが、なかにはすぐに医療機関を受診すべき「危険なサイン(警告症状)」が隠れていることもあります。たとえば、発熱を伴う腹痛、右下腹部の強い痛み、頻繁な下痢や血便などがある場合は要注意です。

これらは、虫垂炎(いわゆる盲腸)や潰瘍性大腸炎など、放置すると重症化する病気のサインかもしれません。また、これらの警告症状がない場合でも、腹痛が数週間から数ヶ月の長期にわたって続き、改善が見られない場合や、腹痛のために学校に行けない、遊びに参加できない、食事が摂れないなど、日常生活に大きな影響が出ている場合、腹痛とともに、不安、抑うつ、不眠、食欲不振などの精神的な不調を伴う場合など、家庭でのケアだけでは限界を感じる場合には、早めに小児科や消化器専門医を受診しましょう。

必要に応じて、小児心身症の専門医による心と体の両面からのケアや、多職種によるサポートが受けられることもあります。お子さんの「お腹が痛い」は、体からのSOSだけでなく、心からのサインであることもあります。無理をさせず、早めに専門家の手を借りることが、つらさの軽減と安心につながります。

保護者として知っておいてほしいこと

お子さんの「お腹が痛い」という訴えに対し、どのように寄り添い、支えていくかは、心身の健やかな成長に大きく関わります。最も大切なのは、お子さんの話をじっくりと聞くことです。「気のせい」や「甘えている」といった言葉は避け、「痛いんだね、つらいね」と気持ちに共感してあげましょう。お子さんの言葉だけでなく、表情や態度からも小さなサインを読み取ろうとする姿勢が、子どもにとっての安心感につながります。

また、頑張ることを求めすぎず、結果よりも努力の過程を認めてあげることも大切です。時には「無理しなくてもいいよ」「休んでいいんだよ」と伝えることや、「ママ(パパ)はいつも味方だよ」といったポジティブな声かけで、子どもの自己肯定感を上げ、ストレス耐性を育むことができます。特に、お腹の痛みを訴えているときには、 「お腹の痛みは、頑張っている証拠だね」など、お子さんの努力を認めつつ、痛みを肯定的に捉えるような言葉を選ぶと良いでしょう。

学校生活との関わりも見逃せません。試験や発表会で腹痛が出やすい場合には、担任や保健室の先生とあらかじめ情報共有をし、配慮をお願いしておくことで、子どもが安心して学校生活を送れる環境が整います。もし家庭や学校のサポートだけでは改善が見られない場合は、専門機関の力を借りることも検討しましょう。小児心身症を扱う専門医や、心理カウンセラー、児童精神科などでは、身体と心の両面からアプローチする治療が可能です。子ども自身の感情を整理するカウンセリングや、家族へのサポートも併せて行われることがあります。

まとめ:お腹の痛みで悩む子どもと向き合うために大切なこと

お腹の痛みは、時に「こころ」の声です。子どもたちは言葉にできない不安やプレッシャーを、腹痛という形で訴えているのかもしれません。お子さんの腹痛は、単なる身体的な反応にとどまらず、心からのSOSであることもあります。焦らずに、できることから一歩ずつ。保護者にできることは、「そのつらさを受け止めること」そして、「一人で抱え込ませないこと」です。体のケアと心のケア、そして生活リズムの見直しを通じて、子どもが少しずつ「安心できる場所」と「前向きに乗り越える力」を身につけていけるよう、周囲の大人が支えていくことが大切です。

【参考文献・エビデンス】
※1:藤井智香子ら. 小児科で経験する過敏性腸症候群の特徴. Jpn J Psychosom Med. 61:57-63, 2021
※2:日本消化器病学会. 機能性消化管疾患診療ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD)改訂第2版

執筆者

プロフィールイメージ
石岡充彬
石岡充彬

医学博士
日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

2011年、国立秋田大学医学部医学科卒業。卒後は秋田大学医学部附属病院の消化器神経内科学講座医員として研鑽を積む。2018年、がん研有明病院消化管内科。2021年、同病院健診センター・下部消化器内科兼任副医長に就任。2022年より都内内視鏡クリニックの院長を務める。2024年7月「日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック」を開設。「自分が検査を受けた後に、大切な人にも勧めたくなるクリニック」をコンセプトに、一人ひとりの不安に寄り添いながら、苦痛の少ない胃カメラ・大腸カメラ検査を提供している。

日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック

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