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35年前、新人バンドが一夜でスターになった“奇跡のデビュー曲” 聴く者を涙で包んだ“沖縄発の純愛バラード”

  • 2025.8.31

「35年前、春の東京で沖縄の風が吹いたのを覚えている?」

1990年、テレビから流れてきたのは、どこか懐かしく、そして真っ直ぐに胸を打つ歌声だった。都会の喧騒を少し離れた夜、部屋のラジオから聞こえてきたその旋律に、ふと涙をこぼした人も少なくないだろう。

BEGIN『恋しくて』(作詞・作曲:BEGIN)ーー1990年3月21日発売。

沖縄県石垣島出身の幼なじみ3人が上京して結成したバンド・BEGIN。彼らが初めて世に送り出したシングルが、この『恋しくて』だった。

テレビ番組の伝説のコーナー『三宅裕司のいかすバンド天国』で、審査員から大絶賛を受け、一気に全国区へと躍り出たのは有名なエピソードだ。12代目イカ天キング、そして2代目グランドイカ天キングという肩書きを携え、彼らは華々しく音楽シーンにデビューしたのである。

BEGINの始まりを告げた1枚

『恋しくて』は、BEGINの1枚目のシングルでありながら、現在に至るまで代表曲として語り継がれている。美しいバラードながら、過剰に感情を煽ることなく、淡々と響くメロディと、心の奥底を静かに揺さぶる歌声が特徴だ。

楽曲は日産自動車のCMソングとしても起用され、街のいたるところで耳にする“時代の音”となった。

カップリングには、エリック・クラプトンの名曲『Wonderful Tonight』のカバーが収録されていた。これもまた、彼らが単なる新人バンドではなく、ブルースやロックを源流とする音楽への敬意と確かな音楽性を持つ存在であることを印象づけた。

沖縄の空気を運んだ旋律

この曲の魅力は、都会の華やかさとは対照的な、素朴で真摯な歌声にある。比喩を多用するわけでもなく、技巧を凝らしすぎるわけでもない。

ただ“恋しい”という普遍的な感情を、飾らない旋律に乗せて届ける。そのシンプルさが逆に強く響き、聴く人それぞれの記憶や情景を呼び起こす力を持っていた。

石垣島という南の島から持ち込まれた音楽は、どこか潮風の匂いをまとい、春の東京に新しい風を吹き込んだ。BEGINの歌声には、都会の中で忘れられがちな“素直さ”や“温もり”が宿っていたのだ。

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1991年、第5回「日本ゴールドディスク大賞」に登壇したBEGIN (C)SANKEI

ランキングを駆け上がった鮮烈なデビュー

『恋しくて』はランキングでも上位に食い込み、20万枚以上売上てデビュー曲にして最大のヒット曲となった。テレビ番組から飛び出したバンドが、瞬く間にメジャーシーンで認知される。そのシンデレラストーリーは、当時の音楽ファンに鮮烈な印象を残した。

また、この時期の日本は“地方出身アーティスト”が続々と注目される時代でもあった。中でもBEGINは、沖縄の風土と文化を自然体で持ち込みながらも、どこか普遍的なポップソングとして成立させた。そのバランス感覚こそが、幅広い世代に受け入れられた理由のひとつだろう。

涙とともに刻まれた記憶

『恋しくて』は、派手な仕掛けや奇抜さではなく、“真っ直ぐな歌の力”で多くの人の心をつかんだ。その後もBEGINは数々の名曲を生み出していくが、デビュー曲にしてここまで人々の記憶に残る作品を放ったことは、奇跡に近い。

35年経った今も、この曲を耳にすれば、当時の情景や自分自身の“恋しい誰か”を思い出す人は多いだろう。沖縄の空気と東京の春が交わったあの瞬間は、今も変わらず音楽の中に息づいている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。