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35年前、日本中が夢中になった“誘惑のラブソング” 夜の街を駆け抜けた“余韻を抱えるヒット曲”

  • 2025.8.28

「35年前の春、どんな音楽が街を駆け抜けていたか覚えている?」

平成が始まって2年目。街はまだバブルの余韻を引きずり、ネオンきらめく夜の歓楽街も、どこか薄い不安を抱えながら光を放っていた。そんな時代の空気を切り取るように、テレビドラマから流れてきた曲がある。

山下達郎『Endless Game』(作詞・作曲:山下達郎)——1990年4月25日発売。

TBS系ドラマ『誘惑』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、山下達郎にとって通算20作目のシングル。キャリアの中盤に差しかかった彼が、時代の節目に送り出した“都会的な大人のラブソング”だった。

トレンディドラマと響き合ったポップス

90年代初頭といえば、テレビのゴールデンタイムに恋愛ドラマが並び、多くの若者がその世界観に酔いしれていた時代だ。ドラマ『誘惑』もそのひとつで、大人の恋愛模様を描く作品として話題を呼んだ。

主題歌『Endless Game』は、まさにそのドラマの色彩を補完するかのように、都会の夜のきらめきと切なさを同時に描き出していた。派手さではなく、深みのある響き。 それがこの曲の最大の魅力だ。

恋の駆け引きを描く映像に、山下達郎の歌声が重なったとき、視聴者は一気に物語へ引き込まれる。

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インタビューを受ける山下達郎-1991年撮影 (C)SANKEI

美しいコーラスワークが生む“音の風景”

山下達郎の楽曲に欠かせない要素といえば、美しいコーラスワークだろう。『Endless Game』でもその技法は遺憾なく発揮され、何層にも重なる声がひとつのオーケストラのように広がっている。

単なるバックコーラスではなく、曲全体を包み込む「もうひとつの主役」として機能しているのが特徴だ。透明感と厚みを併せ持つハーモニーは、都会的で洗練されたサウンドにぴたりと寄り添い、大人の恋愛を描いたドラマの世界観に奥行きを与えていた。

夜の街を駆け抜ける“大人のラブソング”

『Endless Game』のテンポはミディアムで落ち着いている。だが聴き進めるうちに感じられるのは、不思議なほどの“疾走感”だ。ギターとキーボードが絡み合い、リズム隊がタイトに進行する上を、達郎の歌声が滑らかに走り抜けていく。

そこに漂うのは、「都会の夜に溶け込む哀愁」だ。きらびやかでありながら、どこか切なさを残す旋律。そのバランス感覚こそが、山下達郎の音楽を“時代を超えて聴かれるもの”にしている。

1990年の音楽シーンと山下達郎

1990年といえば、日本の音楽シーンが移り変わりを見せていた時期だ。80年代に広がった都会的で洗練されたポップスの雰囲気や、バブル期特有の華やかさがまだ残っていた一方で、より落ち着いた“大人のポップス”が注目を集め始めていた。

そんな中で『Endless Game』は、バブルの余韻を抱えた都会の夜を描く音楽として、多くのリスナーの耳に残った。ドラマとの相乗効果で注目を集めたが、単なるヒットソング以上に「大人のポップス」の象徴的な存在となった。

今なおよみがえる“夜の情景”

『Endless Game』を聴くと、平成初頭の街並みが鮮やかによみがえる。煌びやかな街灯、夜を行き交うタクシーのライト、少し翳りを帯びた大人たちの表情。そのすべてを音で描いたような一曲は、35年経った今でも色褪せない。

美しいコーラス、都会的なサウンド、そしてどこか切ない余韻。山下達郎の手による『Endless Game』は、時代を超えて聴く人の心を揺らし続ける。

あの頃の夜風のように、静かで、どこか熱を秘めた旋律。 それはこれからも、音楽を愛する人々の記憶の中で鳴り響き続けるだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。