1. トップ
  2. 25年前、日本中の背中を押した“ホッと温かい応援歌” 時代を超えて伝えたい“芸人たちの真剣勝負曲”

25年前、日本中の背中を押した“ホッと温かい応援歌” 時代を超えて伝えたい“芸人たちの真剣勝負曲”

  • 2025.8.23

2000年夏。ミレニアムイヤーの真ん中、街には新世紀を迎える高揚感と、まだ形にならない不安が入り混じっていた。CDショップの棚には多彩なジャンルの新譜が並び、音楽番組は今よりずっと“お茶の間の共通言語”として機能していた。

そんな時代の空気の中、お笑い界の人気者たちが、思いがけない形で音楽シーンに鮮やかな足跡を残す。

ネプチューン『上を向いて歩いてゆこう』(作詞・作曲:北川悠仁)――2000年6月21日発売。

名倉潤・原田泰造・堀内健の3人の歌声が、ゆずの北川悠仁のメロディに寄り添う。それはお笑い芸人の企画曲ではなく、真剣に向き合った“本気の歌”だった。

undefined
2002年、『ないモテ男・ないモテ女』出版記念イベントに登壇したネプチューン (C)SANKEI

ネプチューンが歌った、真っすぐなメッセージ

『上を向いて歩いてゆこう』は、ネプチューンにとって通算3枚目のシングル。見ない日はないほどの人気お笑いトリオが、今度はマイクを手にステージに立った。

彼らは1998年、ホフディランの小宮山雄飛が作詞・作曲した『君を探して』で歌手デビュー。当初は「芸人の歌モノ企画」と思われがちだったが、実際にはその活動は継続的で、常に本気度の高い音楽作りを続けてきた。

そして迎えた3枚目。本作ではゆずの北川悠仁が作詞・作曲を担当。彼らの声質やキャラクターを踏まえた温かく、どこか背中を押すような楽曲が誕生した。

CDから流れるのは、コントやトークでは見せない、素朴でまっすぐな歌声。前向きで澄んだメロディとともに、それはまるで芸人としての仮面を外し、飾らない素顔をそのまま差し出すようなネプチューンの姿だった。

北川悠仁らしい温もりと寺岡呼人の音作り

この曲の核にあるのは、北川悠仁ならではの“人懐っこくて温かいメロディ”だ。フォークの素朴さとポップスの親しみやすさが同居し、聴く人の肩の力をふっと抜いてくれる。日常の中でふと口ずさみたくなるような旋律は、北川の作家性を色濃く映している。

そこに編曲の寺岡呼人が加えたのは、シンプルでありながら奥行きのあるサウンドデザイン。寺岡はデビュー曲『君を探して』からネプチューンの音楽をプロデュースしてきた存在で、2枚目のシングル『明日に向かって走れ!』では作詞・作曲も担当。彼らの声の質感や表現の幅を知り尽くしているからこそできる、絶妙なアレンジワークだ。

本作では、ゆずと寺岡呼人によるユニット・The Little Monsters Familyとしてサウンドプロデュースを担当。アコースティックギターの温もりを土台に、やわらかなリズムとさりげないコーラスが重なり、楽曲全体を優しく包み込む。まるで音そのものが歌詞の“上を向く”というメッセージを支えているようで、耳にした瞬間にそっと背中を押されるような感覚を残す。

“芸人の歌”にとどまらない理由

芸人が歌う曲は一発ネタや企画物と捉えられがちだが、この作品は明らかに違った。

3人の歌声は決して技巧的ではないが、それぞれの個性がそのまま滲み出て、曲の真っすぐさを際立たせている。

笑わせることを本業とする彼らが、笑い抜きで歌うからこそ生まれる説得力――それが、この曲を“隠れた名曲”に押し上げた最大の要因だった。

時代を越えて響く“ささやかな背中押し”

『上を向いて歩いてゆこう』は、派手なヒットこそ記録しなかったものの、今あらためて耳にしてほしい“隠れた名曲”だ。ゆず・北川悠仁の温かなメロディと、寺岡呼人による奥行きあるアレンジが生み出す普遍的なポップスの魅力は、25年経った今もまったく色あせていない。

軽やかながらも真っすぐな歌声、そして何気ない日常に寄り添うようなサウンド――聴き終えたとき、心が少し軽くなる感覚が残る。

2000年という節目の空気を閉じ込めたこの一曲は、世代を問わず、今だからこそ出会ってほしい“ささやかな背中押し”の歌だ。

静かに、それでいて確かに、人の背中を押す音楽がある。大げさな言葉も、派手な演出もいらない。ただそっと寄り添い、「また歩こう」と思わせてくれる――『上を向いて歩いてゆこう』は、そんな存在であり続けるだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。