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30年前、日本中を揺らした“妖艶なロックバラード” 22年の封印を破り蘇った“幻の名曲”

  • 2025.8.22

「真夏の夜って、どうしてこんなにも音が濃く感じるんだろう」

1995年の夏、蝉の声が遠くに響き、アスファルトの熱気がまだ足元から立ち上ってくる――日本の街角にはそんな蒸し暑さと共に、ひときわ異彩を放つロックバラードが流れていた。

THE YELLOW MONKEY『追憶のマーメイド』(作詞・作曲:吉井和哉)――1995年7月21日発売。

彼らにとって7枚目のシングルであるこの曲は、4枚目のアルバム『smile』が初めてTOP10入りを果たし、バンドが大きな波に乗っていたタイミングで放たれた。

魅惑と毒をあわせ持ったメロディ

『追憶のマーメイド』の魅力は、熱気と冷たさが同居する独特の温度感だ。吉井和哉が紡ぐメロディは、サビで一気に熱を帯びる一方、AメロやBメロでは水中を漂うような静けさをまとう。その緩急が曲全体に緊張感と色気を与えている。

ギターは重くねっとりと響き、ベースはしなやかにうねり、ドラムはタイトでストレート。シンプルな構成ながら、一音ごとの存在感は強く、聴く者の体温をじわじわと変えていく。

吉井のボーカルは低音域で抑えた情感を見せ、サビで一気に突き抜ける高揚感へと跳ね上がる。このダイナミクスが、聴く者を無意識に引き込むのだ。

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1997年、ライブツアー「TOUR '97 〜紫の炎〜」よりTHE YELLOW MONKEYのボーカル・吉井和哉 (C)SANKEI

認知を一気に広げたターニングポイント

『smile』で勢いをつけたTHE YELLOW MONKEYは、このシングルでさらにリスナー層を拡大した。累計で14万を超えるセールスを記録。派手さや流行性よりも耳に残るメロディと独特の空気感で勝負し、じわじわとファン層を広げた。

この時期に獲得した新たなリスナーが、その後の『太陽が燃えている』の鮮烈なインパクト、『JAM』の国民的ヒットへと繋がっていく――まさに、バンドが次のステージへ進むための“土台”となった1曲だった。

“幻の曲”そして再演へ

年月が経っても、その存在感はまったく色あせなかった。2013年、ベスト盤『イエモン-FAN’S BEST SELECTION-』の収録曲を決めるために行われたファン投票では、膨大な候補曲の中から堂々の最終11位にランクイン。

リリースからすでに18年が経っていたにもかかわらず、熱心なファンだけでなく、久しぶりに耳にしたリスナーの記憶も呼び起こし、多くの票を集めた。

この結果は、『追憶のマーメイド』が単なるヒット曲ではなく、世代や時代を越えて語り継がれる“バンドの財産”として確かな地位を築いていることを示していた。

そんな人気曲でありながら、この曲はリリース当時のライブで披露されたのを最後に長く封印され、ファンの間では“幻の曲”として語られる存在になっていった。セットリストに登場することがないまま、年月だけが過ぎ、2004年の解散まで再演は望まれながらも実現しなかった。

その封印が解かれたのは、再集結から間もない2017年12月28日。福岡ヤフオク!ドームで行われた『メカラ ウロコ・28-九州SPECIAL-』で、イントロが鳴った瞬間、客席からは割れんばかりの大歓声が上がった。実に約22年ぶりの演奏は、メンバーとファンの時間を一気に埋め戻すような熱を帯び、復活後のツアーの中でも屈指のハイライトとなった。

熱の余韻を残す旋律

『追憶のマーメイド』は、情熱的でありながら過剰に感情を押し付けない歌唱、熱を帯びたバンドアンサンブルの中にある静かな余白――そのバランスが、聴き手の想像を掻き立てる。

30年前の真夏、街を揺らしたこの一曲は、今もなお、海辺の夜風のように、そっと耳元でささやき続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。