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25年前、日本中に沁み渡った“心ほぐれるラブソング” 紅白初出場と40万枚超を記録した“平成のやさしい風”

  • 2025.8.22

「駅前でも、商店街でも、あのメロディが流れていたなあ」

平成12年(2000年)の夏。真っ青な空と蝉の声、冷房の効いたCDショップの涼しさ。その店頭に並んだ一枚のCDが、じわじわと全国へ広がっていった。

花*花『あ〜よかった (setagaya-mix)』(作詞・作曲:こじまいづみ)――2000年7月26日発売。

兵庫県出身の女性デュオが放ったこの曲は、日常に寄り添うやわらかな響きで、多くのリスナーを惹きつけ、最終的に40万枚を超えるヒットを記録。年末には『第51回NHK紅白歌合戦』への初出場も果たした。

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1999年、インタビューを受ける花*花のおのまきこ(左)とこじまいづみ(右)(C)SANKEI

関西発、“ふたり”だからこそのぬくもり

花*花は、こじまいづみとおのまきこによるピアノ&ボーカルデュオ。派手な演出よりも、自然体の笑顔と関西弁まじりの軽妙なトークで、ライブでも温かい空気を生み出す存在だった。

『あ〜よかった』は、実はインディーズ時代の1999年に5作目のシングルとしてリリースされた楽曲。それをメジャー仕様にリアレンジし、“setagaya-mix”として再び世に送り出したのが今回のバージョンだ。

原曲の持つ素朴さを残しつつ、サウンド面に広がりと透明感を加えたことで、耳に心地よい“普遍のポップソング”へと進化している。

“ほっとする”の正体

この曲の最大の魅力は、飾らないメロディラインと、声の温度感にある。

こじまの澄んだ高音は、ひとつひとつの音が水面に落ちるしずくのように透き通り、耳に届いた瞬間に心の奥まで染みわたる。一方、おののやわらかな低音は、そのしずくを包み込む湖面のように穏やかで、安心感を底から支えている。

2人の声が交わる瞬間には、まるでふわりと湯気が立ちのぼるような温度が生まれ、聴く人の肩にそっと毛布をかけるように優しく寄り添う。

ハーモニーは単なる音の重なりではなく、2人の性格や人生の温度までもが溶け合ったような“表情”を持っている。息づかいや声色の揺らぎが、機械的な正確さでは絶対に生まれない人間らしいぬくもりをつくり出しているのだ。

肩の力を抜いた美しさ――それは2000年当時、打ち込み主体で構成された派手なサウンドや、技巧を前面に押し出した楽曲が注目を集める音楽シーンの中で、むしろ際立って新鮮に響いた。

まるで、騒がしい街角から一歩抜け出して、木陰のベンチで深呼吸をするような感覚。そんな“静かなごちそう”のような音楽体験こそが、この曲の忘れられない魅力なのだ。

時代とリンクした“やさしいヒット”

2000年は、インターネットが普及し始め、世の中のスピード感が加速しつつあった時代。そんな中で『あ〜よかった』は、忙しさの合間に深呼吸させてくれる存在として、多くの人に受け入れられた。

テレビやラジオでのオンエアに加え、バラエティ番組やCMなどでも頻繁に流れ、夏の風景とともに浸透。発売からしばらくしてもランキング上位にとどまり続ける“ロングヒット”となった。

25年経っても消えないやさしさ

『あ〜よかった (setagaya-mix)』は、リリースから四半世紀を経た今も、多くの人の記憶の中でやさしく息づいている。

ふとした瞬間に耳にすれば、その時代を知らない世代にも、なぜか懐かしさと安心感をもたらす力がある。

聴くたびに、2000年の夏の駅前の風景や、友人と過ごした午後の空気がふっとよみがえる。

花*花の歌声は、時代がどれだけ変わっても、「ちょっと息をつこうよ」とやさしく囁きかけ、忙しさの中でこわばった心をそっと解きほぐしてくれるのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。