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25年前、日本中が鼓動を重ねた“未来予感ポップソング” 五輪金メダリストを支えた“ロングヒット紅白出場曲”

  • 2025.8.19

「2000年の風って、どこか未来の匂いがした。」

ミレニアムを迎えた街は、ネオンの粒がいつもより細かく瞬き、深夜のコンビニまで期待でざわめいていた。テレビではシドニー五輪が連日映り、夜更けのニュースも翌朝のワイドショーも、どこか前のめりだった。

あの年の高揚と希望をそのまま音に封じ込めた1曲がある。

hitomi『LOVE 2000』(作詞:hitomi・作曲:鎌田雅人)——2000年6月28日発売。彼女の17枚目のシングルだ。

“2000”を背負った、未来への号砲

タイトルに年号を打ち込む潔さがまず象徴的だ。イントロは太く芯のあるギターリフから始まり、その旋律が曲全体の骨格を作る。音数は決して多くないのに、わずかなニュアンスの揺れが生々しく、耳に残る。

Bメロに差しかかるとブラスが重なり、曲の温度をじわじわと上げていく。そしてサビでは、そのブラスが一気に解き放たれ、音の壁となってリスナーを包み込む。

ドラムとベースは一体感のあるアンサンブルで、リズムにわずかな揺れを残しながらも、低域の余分な膨らみを抑えて推進力を保つ。骨太さと華やかさを併せ持つサウンドが、聴く者をスタートラインへと導く。

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2002年9月、渋谷でシークレットライブを行ったhitomi (C)SANKEI

ナチュラルな美しさが際立つボーカル

この曲の最大の魅力は、hitomiの歌声が持つナチュラルな美しさだ。過剰に力むことなく、等身大のまま言葉を紡ぐことで、サウンドの厚みの中でも柔らかな輪郭を保ち続ける。

ブラスが全開になるサビでも、声は押し負けず、むしろ音の渦の中でしなやかに舞う。その自然体の佇まいは、聴き手にとっての“背中を押す存在”として、曲のメッセージをより強く響かせている。

作曲と編曲、2人の職人が仕掛けた“加速の魔法”

作曲を手がけたのはwaterのキーボーディスト・鎌田雅人。跳ね上がるよりも“前に滑走する”ライン設計が特徴的で、サビへ向かう助走の作り方が巧みだ

鎌田といえば音楽バラエティ『歌スタ!!』(日本テレビ系)では「ウタイビトハンター」として初田悦子を発掘し、近年は吉本興業の即興コントショー『THE EMPTY STAGE』で音楽監督を務めるなど、スタジオとライブ、作曲と即興を横断する視点を持つ。それが“勢い任せでない高揚感”という彼の持ち味を生み出している。

そして編曲は渡辺善太郎。詩人の血のギタリストとしても知られ、プロデューサー/アレンジャーとして、バンドサウンドを軸に立体感のあるアレンジを組み立てる手腕に定評がある。

本作では、冒頭から主役を張るギターリフを軸に、ブラスを要所で重ねながら楽曲の熱量を段階的に高めていく。特にBメロではブラスの音域が広がり、ギターの芯のある響きと絡み合いながらサビへと導く。そしてサビでブラスが全開になった瞬間、バンド全体が押し出すような迫力が生まれ、曲全体の高揚感が一気にピークに達する。

渡辺とhitomiは『Someday』『体温』などでのタッグも多く、声の芯を残しながら呼吸感を加える設計が、彼女の強さとしなやかさを際立たせてきた。

高橋尚子の金メダルが生んだ“奇跡の再浮上”

『LOVE 2000』は発売直後からランキング上位に入り、印象的なサウンドとタイトルで強い存在感を放っていたが、その勢いがさらに加速したのは秋だった。

シドニー五輪女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子が、練習やレース前にこの曲を聴いて気持ちを高めていたというエピソードがメディアで広まり、再び大きな注目を集める。

10月以降は順位を押し上げ、年末の第51回NHK紅白歌合戦での初出場を経て、2001年に入っても売れ続けた。累計売上は30万枚を超えるロングヒットとなった。

19年後に蘇った“LOVE”

2019年にはセルフリメイク版『LOVE 2020』を発表。オリジナルの骨格を大切にしつつ、現代的な質感にアップデートし、新しい世代にも届く形で蘇らせた。

四半世紀を経てもなお、この曲が持つ速度と温度は色あせず、聴けばあの年の街のざわめきや五輪の歓喜が鮮明によみがえる。

再生ボタンひとつで、あの日のスタートラインへ

『LOVE 2000』は2000年という一度きりの時間を音に刻んだ記録であり、同時に何度でも蘇らせることができる記憶のスイッチだ。

hitomiの声が響くたび、私たちは再びあの年のスタートラインに立ち、未来へ駆け出したあの日の自分に会いに行くことができる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。